ロイドなりに驚いたつもりだった。人間なのだから感情は当たり前にあり、どれかが欠如しているつもりはない。
彼女――の雑談の中に唐突に組み込まれた告白に驚きはたしかにあったのだ。
「あ、信じてない」
彼女は自分勝手にそう言って苦く笑う。なぜそう思うのか。ロイドには分からない。
が自分に惚れていることは知っていたが、明確な言葉を投げられたのは今が初めてだった。
「いや、そういう訳じゃないんだが……なぜこの流れなんだ?」
「なんか“今だ!”っていう気分だったから?」
「そうか」
さて彼女の言葉を鵜呑みにしても良いのだろうか。ふふ、と微笑を浮かべるが、それはいつもと変わりなく見えて、本気か分からない。
「ほら」
信じてない。また彼女は言う。たしかにそうだ、と思ってロイドは「すまん」と正直に答える。
「よし」
なにが「よし」だったのか、訊ねる前にの顔が目の前にある。ずい、と顔を覗き込むの顔はいささか赤らんでいたかもしれないが、もしかすると明かりのそれが反射しているだけなのかもしれない。
ぐわし、と頬を包み込むとはかけ離れた強さで顔を固定される。
「お、おい」
覗き込んでくるだけならまだしも、顔を掴まれて距離を縮めてくるその行為があまりにも唐突で驚く以外にどうすればよかったのか。それでも後ろへ倒れこまずにバランスを保っている。「危ないぞ」と諌めることも、なんなら拒否すら可能だが、ロイドはしない。できない。
ゆらと揺れるの双眸はたしかに不安で揺れていた、一瞬ではあったが。それが一度の瞬きで色を変える。人懐こく、妹のように慕ってきていたはずのそれが、真剣な目で訴えかけるのだ。そうして彼女の真剣さにとらわれている間に、唇を奪われている。
ドッ、と歓声があがった。
ビリ、と空気が震えるようなそれにロイドはハッとしてを引き剥がす。呆けている場合ではない。ここはアジトの食堂で、娯楽に飢えた粗忽者の集まる場所だ。手柄自慢、女自慢、面白ければとにかく何でも良い彼らの娯楽を見つける速さが異常なのをロイドは知っている。
飲みの口実にされることも、賭博の対象にされることもザラにある。も例外ではないのだ。
案の定、正気と言っても差し支えないかわからないが、正気に覚めた彼女の顔を改めて見るなら顔は赤い。反射のそれと違う明確な紅潮と、周りの揶揄にうろたえる様が確信させる。
「。責任を取れ」
の手を取り、左胸に引き寄せる。彼女は気付くだろうか――早鐘を打つ鼓動に。
言葉以上に伝えるのはいつだって体なのだ。