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プロローグ 19.06.03
が何かを探している。それが軍内でちょっとした話題に上ったのは夕食時であった。話題の中心となるは其処には居らず、しかし代わりに首を傾げた英雄達が集まっている。
「の失せ物は見つかったのか?」
「私は残念ながら見てないわ」
「がどうしたの?」
そんな会話が広まり、が声を掛けていない英雄たちですらも彼女の悩みを共有するのは時間の問題であった。人の良い英雄達は肴にしつつも情報を提供し合うことで問題の解決を図る。それくらいにはこの軍は和やかであった。当事者のの心境とは裏腹に。
「ほんっとに無い!」
黙々と失せ物の捜索に勤しんでいたも、遂に集中力が切れてしまった。誰も居ない場所に彼女の嘆きは虚しく散る。疲れた、とその場に座り込んで辺りを見回すが目に留まるものはなにもない。見慣れた鍛練場に彼女の失せ物はあまりに小さかった。
耳元に触れれば、短くも確かな自分の源となったそれがない。ピアスにしておこうと、無くさないようにと対策を立てていたのに後回しにしてしまった――どう嘆いても自業自得だ。
「早く探さなきゃ」
失せ物は自分だけに価値がある。自分の宝物は自分の物でしかない。どうにかして、とにかく、探し続けることしか思い付かない。
「今日会った人って――」
場所についてはしらみつぶしに探した筈で、穴があるかもしれないがもしかすると誰かが拾ってくれているのではないか。と思い至ると、途端にそこに期待してしまう。
今日は誰に会った?