2021/07/06
title by icca


 彼の機嫌は非常に悪い。ベッドにあぐらをかいて座っているかと思えば、そこに肘をついて、あからさまに不快だと表現のため息をもらす。目の前のが萎縮してしまうのは致し方ないことであった。とはいえ、部屋に閉じ込められたのも、理不尽な指令が下ってしまうのも彼女のせいではない。互いの間に置かれた、この部屋を出るための指令書が視界に入るが、不快でしかない。
 初めてではない。ここを出る手段はその指令書以外にないのを知っているからこその不快感だった。

「前に閉じ込められた時より内容が酷ぇな」
「…………」
「おい。?」
「あ、ごめん! 考えるの放棄してた」
「……お前が大丈夫ならすぐ始められるぞ」
「うっそ!? ライナスはヤル気あるの?」
「抜け穴も何もねぇのは確認したんだ。仕方ないだろ」

 閉じ込められてすぐに確認することは、脱出出来そうな脆い部分はないかだ。何かのギミックもあるかもしれない、と二人は丁寧に、それこそ何の為にそこにあるのかわからない本が詰め込まれた本棚の天板の上まで確認している。本についてもわざわざ一冊ずつ中を検閲したのだが、徒労に終わっての今なのである。

「うーん。気分が全然乗らないからぶっちゃけライナスのが挿入らないと思うの」
「恥ずかしげもなくよく言えるな」
「だってそういうコトするんだから、体の状態のことを知って損はないでしょ。私だって痛いのはイヤ」
「初めてじゃねぇんだろ?」
「まぁ……」
「なら何とかなる」
「……ライナスって根拠のない自信を口にするよね」
「ケンカなら買うぞ」
「ウソです。ごめんなさい」

 優しくして。とがおどけて言うものだから、ライナスは逡巡の後に短く肯いた。もともと女や子供を怖がらせる図体と人相をしている自覚はある。だが彼がいたずらに相手を怖がらせることはない。彼がいくら直情的であっても【黒い牙】の理念はしっかりと染みついているのだ。

 思ったよりも落ち着いた口づけだった。逆に意識が冴えてしまっては恥ずかしくなるのだが、がちと顔を固定されてしまっている。逃げることもできないし、意識しすぎて恥ずかしがっている姿もライナスには露わになっているだろう。

「その気になんねーの?」
「恥ずかしくて死にかけてる」
「なんだそりゃ」

 あきれ半分、バカらしさ半分といったところか。ライナスは鼻で笑う。「ほら」と彼は促す。背中を向けろということらしい。

「顔見なきゃマシだろ」
「いやあの、これはこれで……っ」
「これ以上は諦めろ」

 確かにこれ以上はどうにもできない。抵抗の無意味さを受け入れて脱力するとともに背中をライナスの胸板に預ける。後ろから伸びた手が首元の留め具を外す一方で、思いついたように首筋を熱い舌が這うものだから、は身をよじらせた。寛ぐ服の隙間から手が入り込んで、胸の柔らかさを確認するように揉まれる。彼の手からすれば、きっと物足りない大きさにちがいない。
 固く立ち上がりつつある頂をぐにぐにと捏ねられると、鼻から息が漏れる。じん、とした痺れがあった。指の腹が掠めるだけでも気持ちが良くなっている。

「ふ……ぁン、」

 抵抗にもならない、ただ所在をなくした手がライナスの腕を掴む。合わせるように、胸をわしづかまれて強い刺激を与えられた。理性がまだ大半を占めているはずなのだ。「腰、浮かせな」そう言って腹を撫でたかと思うと、するりと下着の中に手がすべりこむ。やたらと慣れてる。そう思いながら、言われるがままに腰を浮かせるのだ。
 片側の膝を掴まれる。足が開いて、彼から見えないにしても十分に恥ずかしい。覚悟の猶予なのか、それとも焦らしているのか。足の表面だけを撫でるから堪らなくなって、喉が鳴る。
 指先がぬかるんだ秘裂に埋まって、思わずは足を閉じた。

「あのなぁ……ほぐせねぇだろ」
「わかって、るけど……ライナスの指が、……んんっ」

 痛くないようにしてくれているのは分かってはいる。だが、自分のものより当たり前に太いのだ。体液の滲出を促すように浅い部分で円を描くように撫でられると、なんとも言えない感覚になる。もっと奥を、とは言葉にできないでいて、顔の隣にある太い腕にしがみつく。と、そのまま体が倒れこむ。なに、と状況を理解するよりも早く、ライナスが足を持ち上げて自身の立てた膝にの足を引っかけた。無意識的に足を閉じてしまうのならそうさせなければいいのだ。
 先程よりも深い。そして、指が増えた。あからさまにかき混ぜられる音に、体が熱い。好きに動くライナスの右手を掴んでも、自分の力ではビクともしない。腹側の一部を不意に指の腹が強く押さえる。

「や、ソコ、は……っあ!」

 シーツに顔を埋めるはいやいやと頭を振っていた。潤滑油さながらの愛液に任せてライナスは多少乱暴になる指での注挿をやめない。親指がぐりと膨らみつつある花芽を押さえると、の爪がライナスの腕に立つ。

「あ、あ…、ダメ、それ……ッ!ヤめ、や…だぁ……っ!」

 ふわと火照りに合わせて香る彼女のなにかに、ムラと湧く。きたるものから逃げようとして、抵抗が強くなるのを構わずに、ライナスはその体をがちりと押さえ込む。著しい反応を示す部分をことさら強く刺激し続けると、引きつったような喘ぎ声が一瞬あってジワと手が濡れた。
 濃いシミがシーツへ広がっていた。ゆるりと指を引き抜くが余韻に支配される彼女の反応は薄い。それで良いのだ。体の緊張がほぐれているなら問題はない。と、ライナスはベルトをくつろげて下着もろとも脱衣する。
 女の体に触れるのが久しぶりだ。鍛錬でそういう欲は鳴りを潜めてはいたものの、在るものは在る。渡りに船とまではいわずとも、いいタイミングだったのは否めない。だからこうして自分の陰茎は固くなっているのだ。

 先走る液をてらりと光る秘裂へ馴染ませるように押し当てる。腰を進めると抵抗を受けながらも先端は粘着質な音とともに中へ埋まる。が唸る。足を開いたところで、ライナスの質量を受けとめるにはキツイものがあるらしい。

「ライナス、ッ…ぅ…、ちょっとつら、い……っあン!」

 がわずかに頭をもたげて、つながる部分を覗きこむ。三分の一ほどの挿入に「ウソでしょ……」とやるせない声を出す。つい緩みかける口元を隠すついでにペロリとライナスは自身の親指を舐める。

「すぐに慣れる」

 そう言うと、膨らんだ花芽を濡れた指で皮ごとグリグリと押しつぶしながら腰を揺らす。小さな動きだが、つかえ気味のライナスの雄は膣内へと呑まれていく。押し入る苦しさを、ビリビリとした快感が誤魔化していた。どこに集中すれば良いのか分からない。苦しさに呻くのか、悦楽に喘ぐのか、混乱する。結局は与えられるままに体が勝手に反応するのだが――。

 信じられない。つい口にしてしまいそうなのをは抑え込んだ。
 体格差など見たままで、それ相応に比例したものだろうと頭で理解はしていた。それでもやはり、体感すると違う。久しぶりなこともあるかもしれないが、とにかく埋め尽くされた感覚が苦しいのは確かだった。だからしかめっ面になってしまって、呼吸も浅い。待っていたら楽になるのかと聞かれてもわからないことを思えば、ライナスがの腰を掴んで強く揺すりはじめることはおかしいことではなかった。

「やぁ…!…ん、んんッ……ぅ、ァ!」
「は、ぁ……ツライなら、…声、出しとけ……っ」

 もうここまでしてしまった。また優しくするのは無理だ。ざわざわと這うように全身を覆っていく快感は待ち望んでいたもので、ふり払えない。肉を叩く、行為の生々しい音が響く。今までそこにあったはずの余裕が消えていく。
 体を抱き起こして、そのまま後ろ手に体を支えさせる。ゆるくだが、腹側にあるであろうイイ部分を刺激するのか、揺さぶるたびにの顔が切なげに歪む。途切れ途切れの喘ぎに口をついて出たような本心が混じって気分は良い。

「あん、…アッ…らいな、……ンぅ!」

 じわりじわりと突くたびに、結合部分からは薄く白濁した体液が溢れでた。いやらしい音を立てながら彼女の中に呑まれていく様も悪くない。

「きもち、い……っあ…ッ、らい、ライナス……もっと、……ア!」
「ッ…そう、いう声…で、名前呼ぶなっ……」

 息が上がる。限界近くまで膨れたライナスの雄は先程から痛いくらいに締めつけられていて、果ては近い。
 膝裏をつかんで引き寄せると短い悲鳴とともにの体が崩れ落ちる。息を呑むような一息の休憩を終えて、頼りない足が腰に絡んだ。そうした彼女の意思に、拘束するかのように手を縫い止めるライナスの所作は無意味だ。それでも、優位に立ちたい、何かしらの支配欲が作用していたのかもしれない。握り返すこともできないほど一方的な力の方向に、は嫌と言わない。彼女の中では些事の範囲なのかもしれない。

 ベッドが規則的に、しかしそれまでよりも間隔の短い軋む音を響かせながら揺れている。何もかもがぐちゃぐちゃに乱れているが、そうした当人たちは構う余裕がない。

「ひぁ!っぁ、も……っ!あ、ァ……っ、ああっ!」

 一際高く喘いだが不規則に体を震わせる。余韻に翻弄されている最中に圧迫感が不意に消える。と、腹部に熱いものが吐き散らされていた。

 はあはあと荒れた呼吸が混ざる。ぼんやりとした頭で、どちらからともなく唇が合わさる。雰囲気に呑まれたといえばそれまでだが、悪い気はしなかった。

ガチャン!

「お、開いたな」
「もう少ししてから開いてくれても良かったのに……」
「あ?」
「腰から下がなんか変。ちゃんと歩ける自信がない」
「ひさしぶりってだけでそんなになるか?」
「いやー、結構激しかったデスよね」
「ぐっ……」
「気持ちよかった?」
「うるせぇ。支度しろ」

 解錠の音に、それまでの関係は深いものではないと言い聞かせるように、二人は笑う。実際二人は深く考えてはいない。だから後悔もない。なんの名残惜しさもないから身支度はすぐに整う。

「ほら。つかまれ」
「え、いいよ。ゆっくり戻るし」
「いいから。事情聞かれて困るのは誰だよ?」
「抱っことか余計に好奇心をそそ――ひぇ!?」
「誰にも会わねぇように祈っとけ」

 彼らは自分たちが思うよりもずっと距離が近い。

アンチイノセント

(純情な時は過ぎている)
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