中身を捨てれば良かった。と気づいたのは体に変化が訪れてからだった。体が焼けるように熱い。毒か、と一瞬思ったが死の恐怖がせり上がってくることはないから違うのだ。
「……水、飲んで」
それまで穏やかな顔をしていたはずのの顔は歪んでいて、彼女は水袋をオーディンへ差し出す。そんなことをするつもりはなかったのに、奪い取る乱暴な仕草が出てしまう。喉に張り付いた甘い味が何故か渇きを増長させている。
冗談じゃない。ゼロのやつは何を考えてんだ!
オーディンは仲間がに何を盛ろうとしていたのか判って、すぅと心が冷えるのが分かった。彼にとってはちょっとした遊びになるのかもしれないが、この男の多い場所でそれはあまりにも危険な代物だ。
「サクラ呼んでくる」
「ま、まま、待って!待ってください!!」
状態異常の一種だ。治療は出来るのだろうが、麻痺でも毒に中ったわけでもない。迂闊だった。ゼロの性癖を知っているのに。
「こ、れ……たぶん、媚薬、なん、で」
水を飲む、なんていうのは役に立ちそうにない。芯が熱く、飲んでもそれは冷めない。自身の下半身が情けなくも薬の影響で屹立しつつある。頭を冷やせば、と水袋の中身を頭に引っ掛ければ水の冷たさが心地好く一瞬そうした熱を忘れられたが、水がなくなるまでの一時だ。
非常にまずい。女性を襲う思考に囚われることはないだろうし、自身の理性で押し止められる程度の媚薬ではあるらしいのだが。
「ひとりに、させてくたさい」
部屋に戻れるならそうしたい。だがこの奥まった東屋は宿舎から距離がある。そう人が来ない場所であるなら、ここはある意味で勝手が良いだろう。
「そう強くないから、さんが気にする必要はないです」
だから早く。と続けたかった。醜態といっても良いこの姿を、好意的に思っている人へ誰が見せたいというのか。なのに、なのに彼女は
「抜くの手伝おうか?」
「い、いやいや!何言ってんですか!?」
「確実にとばっちりでしょ、オーディンは」
突然、突拍子もないことを言ってのけるだ。断っているのに、言い出したら時々頑固になる彼女はいつのまにか膝の上に跨がっている。
「、さん!ほんとヤバイですって!」
「風邪引くよ」
水を頭から被ったオーディンの身衣は当然濡れている。マントと一体化している上衣の留め具を1つずつ外す、服の着脱に当たり前の行為が扇情的だ。ずくん、と疼く下半身に集中してしまう。そして、反応しないようにとも制御をかけるのに、の手は止まらない上に、呆気なく上衣を脱がしきってしまった。
ただ、指先が体の表面を撫でただけだというのに高揚感が増す。
「ちょっ!」
聞いてくれ、とオーディンはの腕をつかむ。剣を振るうには細すぎるそれが、理性を奪う。下手に触れないと分かっているのに、触れたいと、しかし埋めていた欲求が鼓動と共に増すのだ。
「巻き込んでごめんね」
するりと腕が首に絡んで、目の前には思いの外弾力のある胸がある。拒否しておきながら、正直な体は素直に反応した。体の熱が頭に回りかけているのか、熱に浮かされた感覚だ。浅い呼吸が、彼女に言うべき言葉を奪って声が出てこない。
「、さん……」
掠れたそれは彼女に届いて、唇が重なる。戸惑いはある。想いはそこにあるのか?巻き込まれたのは事実とはいえ、自分にも落ち度はあった。必ずしもの手を借りる必要のないこの状態に、なぜ彼女は手を差し伸べるのか――期待しても良いのか?
上唇を這う舌があったかと思うと、それは小鳥の挨拶のようなついばみに変わる。二度、三度と繰り返されると自然と倣ってしまう。それが深くなるのは当たり前の流れだった。
なんだか甘い。口に残るラムネのせいなのだろうか。自分が主導を握っても良いのか不安になりながらの素肌に触れる。びくり、震えるのが何故か嬉しい。なめらかさを楽しみ、弾力のある胸を掴む。そういえば幼馴染みは胸の大きさを気にしていて、しょうもないことだとその時は思ったのだが、触り心地良く思えるの胸は好きかもしれない。悲しいかな比較対象は居ないのだが。
服を捲し上げた。自分の手の中で、形を変えている胸が視界に飛び込んでくる。先端をぐりぐりと摘まむと先が尖る。誘われるように口に含むと頭上で小さな声がした。固くなったそれを飴のように舌で弄ぶ。の腰が少し揺れていた。
腰に、いや下着に手をかける。親指を引っ掛ければその意図が伝わり、は腰をあげる。隙間から指を侵入させ、今はまだ乾いている秘部に触れた。
「んっ、……」
乾いていても、それが生理現象であるからか撫で続けているとくちゅくちゅと音が聞こえ始める。中指の先に生温く絡む愛液はまごうことなく彼女が今しがた分泌したものだ。撫でれば撫でるほど良を増して滑りが良くなるものだから、指一本であれば根本までの侵入はそう難くない。
「すご、い……なかが熱いっ…」
膣壁を擦り、陰核を押し潰す。鼻から抜ける息は演技ではないはずだ。
声をかけるまでもなく増えた指の数に欲は色濃くなるし、焦りが生まれる。表面だけの触れ合いの物足りなさといったらない。
ずらした下着の脇から完全に屹立したものを宛がう。座ったままで、そばのテーブルにでも押し倒せばよかったのに、タイミングを完全に逃してしまったものだから、が少し辛そうに陰茎を埋めた。出来ることといえば体を支えるくらいで、程好い重みがかかる。
「は、……あァッ!」
自重が繋がりを深くしたか、はオーディンに抱きつきながら喘ぐ。どことなく掴めない普段の姿から解離している。熱っぽさを帯びた顔が、快感にあげる声が
、新鮮だ。緩く前後に腰を動かして、感覚を馴染ませているだけのそれであっても、快感は快感だった。
「さ、っ……!」
「ん、んっ…」
目を閉じ、得られる感覚をより強く味わおうとするは共有するかのように、オーディンの顔を掴んで口付ける。積極的、といえるその激しさは求められていると錯覚しそうだ。久しぶりなせいも、薬のせいもあって、ひどく興奮する。彼女に突き立っているものが奮える。
「っ、……俺が――」
余裕はない。疼く欲が体を支配して傍らにあったテーブルに座らせる。開脚された脚の中心には怒張している陰茎を厭らしく呑み込んでいる秘部がはっきりと見える。感覚からも視覚からも現実を突き付けられて、ますます高揚した。せざるをえない。
足が絡み付いてくるのに合わせて、オーディンは緩やかな律動を始める。後ろに手をつき、自身の体を支えるはただ与えられるものに善がった。
「あっ、あァ!んっ、……ァ、ん!」
注挿を繰り返せばそれだけ彼女の中から愛液が溢れる。ただずらしただけの下着が濃く変色させるほどに。
「オーディ、ンッ!ふ……っ、あァ!…ァ…」
三日月ほどに薄く開かれた瞳は少し茶色い。濡れた唇が発した名前は特別でもなんでもない。彼女には魔法の素質がなく、言葉に力をこめることも出来ない。はずなのだ。なのに誘われる。名を呼んで欲しいと思いながら、その口を塞ぐ。繋げられるものを繋げられるだけ望んで。
オーディンの律動はの膣壁を抉るように撫でていた。腹部側を強く擦られ続け、腰が疼く。視界はちかちかと眩み、快感が強くなる一方で苦しい気がする。この感覚にが慣れたことはない。そして、そこまで昂ったものを男側は無かったことには出来ないから、彼女が例えば拒絶の喘ぎを発してもそれは形ばかりだと捉えられるし、自身も本意が知れない。
「ッ!……んん…っ!や、オーディ…ァ…あぁっ!」
胸元が急激に熱を帯びて、それが全身に回ったかと思うと足が震え出す。オーディンの体をぐいと押すと、その手すら震えていた。
「ごめっ…ん、さん。もう少し」
ずるりとおさまっていたものが引き抜かれ、同時に両膝をも引き寄せられるからテーブルから落ちてしまう。下にへたり込むよりも前にオーディンに支えられて体を反転させられる。間髪いれずに再びオーディンのものがの中を満たした。
「んぁ!あ、っ……や!」
ぐん、と子宮口まで一気に貫かれ、まだイっている途中のはテーブルに顔を突っ伏して波が去るのを耐える。それでも絶えず快感を与えられるものだから、ツラくて爪が立つ。オーディンのための行為だ。逃げてはダメだ、と膣に意識を集中する。しかしこまったことに、そうすれば一層強い快感を得てしまうのだ。
の及び腰を封じる意図もあったのだろう。背中に覆い被さる感触があって、力の入る手を握られる。指と指の間にオーディンの物が絡んだと同時に、彼の動きは深く強いものに変わった。
「さ、んッ!」
掠れた声だ。普段とまるで違う。芝居掛かっていないことに違和感があるが、素の彼なのだろう。存外、男らしい。ダークマージ…魔導士は基本的に体格が恵まれていないはずなのだが、そういえば体躯は良い。彼の過去は大分ぼかしを入れたものを聞かされていて、懐いている割に確かな線引きはあったのだ。
「 んんっ……!あっ、はあぅ……ッ!も、もう……ィ、くぅ!」
性急な律動に合わさった肉を打つ音が大きくなる。野外であることを忘れているわけではない。が、そんなことが流せるほど目前の快楽を求めていた。先程とはまた少し違う刺激だ。快感に代わりはないが、強い。腰が震え出すのにガッチリと押さえ込まれているのを思い出して、身を委ねる。絡む手に力がこもる。荒くなる息づかいと、服越しに伝わる高い体温が限界を伝えていた。
が息を呑む。呼吸をすることすら忘れるほどの強い感覚が体を巡り、勝手に痙攣を始める体以外にも意思は宿らない。きゅうきゅうと収縮する内壁がオーディンのものを締め付ける。それ以上ないほどにオーディンが腰を押し付け制止した。びゅくびゅくと荒れた呼吸のような吐精を終えると、オーディンは深く息を吐く。
汗ばんだ体からは不思議と離れづらさを感じてしまう。上気した頬に思わず口付ければ、がうっすらと目を開け、笑んだ。
「気持ち良かった……」
「――俺も」
彼女は優しい――ただ誰に対しても。自分よりも幾分か大人であるから、自分が知らないだけでこうした関係を持つ相手がいるかもしれない。こうした関係をモノともしないかもしれない。それでも期待せずにはいられない。
「さん。俺は勘違いしても、良いんですか?」
彼女が笑むだけだとしても、期待せずにはいられなかったのだ。