したたかな玻璃
Zero @ FEHeroes
Published 19.12.10
title by まばたき
「
。ゼロは大丈夫?」
「なんで?」
エクラの執務室で腰を落ち着け、彼のためのお菓子を少しばかりつまみ食いをして機嫌を良くする
には、エクラの問いが理解できなかった。ここ最近は彼の悪い悪戯に巻き込まれることもなく、至って平穏に暮らしている。なにも心配されるようなことは無い。起こってもいない。
「週に一度は愚痴をこぼしてたからね」
「エクラくんもしょうもない話聞かなくて済んで良かったじゃない」
「まぁ……」
だからそろそろ何かあるんじゃないか、とエクラは危惧しているのだが、肝心の彼女がこうだ。
「ずいぶんとヒドイ目に遭ってるらしいのに危機感がザルだよね」
「あ、あんなもん蛇に咬まれたと思えば──」
「けっこう大怪我なの分かってる?」
ふ、とそれが夢だと気づいて
の意識は急速に浮上する。少し頭が重い。痛いのかもしれない。こめかみを押さえようとして、鈍い痛みが肩口にある。ゆっくりと目を開ける。はっきりとした時間は分からないが、ランタンに灯を点すような時間帯らしいことだけがわかった。そして改めて意識を集中すれば、両手が後ろ手に拘束されている。つい先日も両手を拘束されたことを思い出せば、犯人は彼以外にあり得ない、確信があった。
「ゼーロー!!」
「お目覚めか?」
犯人はやはり彼で、隠れて様子でも窺っていたのか、ゼロはひょっこりと姿を現す。機嫌良さそうに口角をつり上げながらベッドの脇へ腰を下ろすと、フレームの軋む音が響いた。
「ここ、……」
「俺のベッドだ。見覚えはあるだろ?」
英雄たちの暮らす宿舎はどこも作りは同じだが、やはり持ち主の性格というものは出てくるものだ。あぁ言われてみれば、と同意しそうになったがはたと気付くのだ。
「いやいやいや。そうじゃなくて、いつ私はここに来たのよ。ぜんっぜん覚えがないけど?」
が例えば彼以外にも体の関係があったとしても、彼女なりに節度を意識しているつもりで、ほいほいと男の部屋へ訪れることはない。そもそも部屋へ訪れるほどの用事がそれくらいなのだ。談笑は拠城のあらゆる場所にある休憩所や、食堂、訓練所で事足りていた。そしてどんなに記憶を探ってもゼロと今日そうすることへの合意に至った記憶が無い。縛られていることが証拠でもあった。
「前のクスリはお気に召さなかったようだからな。睡眠薬なら……」
「待った。待って。いつ盛った?」
どうにもこの男には倫理観というものが欠如しているらしい。
の問いに鼻で笑って答えるのだ。
「良いねぇ。そのイヤがる顔。そそられる」
の体を跨いで、ゼロはごく当たり前の仕草で白い首へ顔を埋める。すぐそばにはずいぶん前につけた、打ち身のような色合いのキスマークが漸く薄くなって、だが残っていた。大きなものが良いだろうか、それともまた殴られたような濃いものが良いだろうか……。
「やっ、……お、オーディンが居るでしょ!」
思案していると、
が焦った口ぶりで訊いてくる。時間稼ぎのつもりなのだろうか。そうして拘束された体を捩り、逃げ出そうとするのを難なく押さえ込み、彼は答えてやる。
「反対側で寝てる、が、まぁキいてるうちは問題ないだろ」
ゼロに嗜虐的な性癖があるのは確かだ。オーディンがこの事態に気づけば
は羞恥に塗りつぶされるだろう。そうした所を責めるのも嫌いではなかったが、彼女を好くオーディンが邪魔をしてくるのは明白であり、実行されるのはゼロとしても真っ平ごめんなのだ。だから彼は入念に
へ盛ったものよりも多い量を、同僚の飲み物に細工している。さぞ朝まで良い夢を見ることができるだろう。
「仲間にクスリを盛るとか……」
「邪魔をされたくないんでね」
それは彼の確かな本音であった。
外気の冷たさに反して、触れあう部分が熱い。舌が滑り込みなぶる音は小さいものだというのに、この静かな部屋にはよく響いた。普段なら気にならない布ずれの音すらも。
「……っ、ん……やだ、ぁっ!」
少し頭がぼーっとしていた。苦しさと、紙一重の悦楽が混ざっている。自由にならない手がもどかしい。自分に為せるものがないというのは、ままならぬのは実に悔しい話だ。
あぐらをかくゼロは
の臀部を高く持ち上げていた。下着の取り払われた秘部が目と鼻の先にある。繁みを分け、全く濡れていない割れ目にゼロは赤い舌をねじり込む。固くもなく、けれども不可解な動きをする柔らかなそれに
は腰を泳がせるのだが、手が自由にならないのだ。自分の体すら支えることが難しく、ゼロの思いのままになっていた。力の入る両腿に絞められないようにしっかとつかむゼロは、膣壁を丹念にねぶる。
「あ、ひぁ……ッ、やめっ!……ぁ、あん!」
入り口近く、浅い場所を執拗に責めると明らかな声の変化があった。いやいやと首を振るが、
が逃げることは出来ない。足先に力がこもり、彼女の意識の外で内股が小さく震え始めるのを知るのはゼロだけだ。だから余計に彼は責めるし、
はイヤがる。舌先で器用に花芽を見つけ出し、ぢゅ、と音を立てて吸い付くと大きく体が跳ねるのだから正直だ。痛がる様子がないのならと、強く吸い上げるとたちまち
は達してしまった。少し遠くを見ているように視点が定まっていない。余韻に思考というものが覆い被せられたのか、ゼロが内股を撫でても
の反応は少し薄い。それでもこれで止めるつもりは元より無いから構わない。腰を掴みぐるりと体を反転させるゼロは触れずともいきり立った自身の雄を突き出させた秘部へ当て、
が正気を取り戻すそのタイミングで最奥へ一気に押し進めた。
「あァっん!ふ、……っア!」
「ふ、ぅ……イッちまいそうだ……」
待ち構えていた肉食植物のように
のナカは狭く、蠢いていた。きつく捉えられ過ぎてゼロ自身が気を緩めてしまえば達してしまいそうになる。腰を乱暴に振って、自己満足を得ても良かった。が、そうしないのは眼下の象牙色の肌をした背中が思いの外小さいのだと実感してしまったからかもしれない。よく見れば、所々に傷の痕もあった。脇腹辺りの薄い傷跡を指先でなぞる。裂傷だろうか。よく今まで生きてこれたな、という印象があってゼロは苦く思う。彼女は殺しあいが当たり前の世界にはひどく不適合なのだ。
縛っておいた腕を引き、上体を起こさせる。柄にもなく、抱き締めていた。
「…、ゼロ」
手が自由にならない。いや、自由を奪っている自分の名を何故そうも優しく呼ぶのか。そんなことで、その程度だというのに、心がざわついてしまった。大した意味などもたないであろうそれに馬鹿正直に期待している。赤みを帯びた耳殻を軽く食むと膣がきゅうと締まる。眉を悩ましげに潜め、口を閉じて、今更だろうに彼女は快楽に呑まれないように、いやせめて悦んでいるのを知られないように抵抗している。そんな様はただただゼロの嗜虐心をくすぐるだけだというのに。
腕を捉えたまま、抜ける寸前まで腰を引くもののまたすぐに音がなるほどの勢いで最奥まで突く。激しい律動を続けられているのに倒れ込むことも出来ず、人形のようにがくがくと揺さぶられてしまえば、大きな快感の前で悦びを隠すのは到底無理な話であった。
「あ、ぁん、っあ、あ、ンっ……!はげ、……しぃ…て…ふぁっ!あぁ!」
クスリを盛られたこと、カラダを拘束されていること、それらは頭の中から抜け落ちて、代わりにあるのは突かれる度に大きく広がっていく快感だ。
「あ……、ぁ、ぜろ、ゼロっ……イっ、……ぅ?」
「イヤらしいな、
」
快楽の熱に浮かされてとろりとした表情で
は耳を傾ける。言葉の意味を理解したのは一呼吸のあとだが、彼女は異を唱えはしなかった。
「ゼロ、そろそろ……」
「ん?熱いのがナカに欲しいのか?」
先端に当たるのは子宮であったか、ぐり、と押し当てる。鈍い痛みに小さな悲鳴をあげてのけ反る
の首を撫でる。細いそれは簡単にどうとでも出来そうで、顎に人差し指を沿わせるゼロは堪らない。
「も、……ほどぃ、て」
小さな喉仏が手のひらの中で上下する。渇望なのか、ぞわりとゼロは悦楽とは違う満足感がそこにある。喉から肩へ、肩から二の腕へと撫で、自由を奪う布の結び目を解くと、
は自身の力で四つん這いになる。その姿に倣えば獣の睦事だ。
「は、……本当にズルいな、
」
気だるげに、しかししっかりと熱を帯びている声音でゼロは耳元で囁く。呼応するようにきゅうと収縮する内部が催促するのだ。応えてやらないわけにはいかない。熱い体がメスの匂いを強く発していた。
直情的な激しい律動に肉のぶつかり合う音が響く。結合部からは絡まりあった体液が溢れて落ちるから白いシーツは鼠色に所々濡れている。
動きに合わせて漏れ出る喘ぎ声はあまりに生々しく、この関係性をシンプルに表現していた。
「あ、アっ!ん、ぁ……っや、あ、あ、あ……!」
もどかしそうに腰を揺らめかせ始める
の果ては近い。逃げたかと思うと自ら臀部を押し付け、また悶えて、と繰り返す。
腰を掴み、
の自由を再び奪う。しかしこれは間違いなく彼女も望んでいるものだ。がつがつと抉るように深く強く突けば、甲高くなる矯声があがるのだ。「やだ」と何度も望みとは正反対の言葉を出しながら、彼女は終わりを願っている。
ゼロの雄が彼女のナカを隙間なく擦り、子宮口を叩く度に視界がちらちらとしていた。目を閉じても眩んだように、暗闇の中で何かが光っている。同時に苦しさに溢れる声が絶えない。下半身が、繋がった場所が、突かれている奥が、熱い。強い刺激にどうすることも出来なくなって
はゼロの枕に顔を埋めた。なんでもいい、なにかにすがっていたかったのだ。
「っふ、……っ、あ、う!ぁ!……っ、アっ!」
ちらつくそれがより一層広がり全てか白くなる。声はでない。カラダを支えていられない。
「
……っ、」
ひときわ強く何度か突かれたかと思うと苦しそうな声が耳元で聞こえた。次いで圧迫感があって、ゼロもまた脱力したのだと、ぼんやりと
は悟る。びくびくとナカで震えるものに文句を言う気にもなれず、心地よい疲労感に目を閉じた。
「──!────っ!」
「────?」
ふと、雑音が紛れ込んできた。寝ていたことに気付いて、その雑音──怒鳴り声はとても不快な音だった。何を言っているのか中々理解できないのだが、すぐ後ろからしていてうるさい。のろりと体を起こして、何度かの瞬きをした。
「やれやれ。起きちまったか」
「……おはよ、う?」
よいタイミングではなかったのだろう。目は開いているのに焦点がまるで合わない。目頭を摘まんで数秒、脳の覚醒が理解を手伝う。寝起きであること、体が少し痛いこと、ずいぶんと寒いことを感じて声のした方を見る。ゼロはニヤニヤと笑っている。普段と変わらないといえばそうなのだが……
「
、
さん!ふふふ、ふく!服着てください!」
あわわ、と年不相応に顔を赤らめるのはオーディンだ。が、彼の言葉にそういえば、と眠る前のことを思い出した。慌てて裸体を隠し、
は真っ赤な顔のオーディンに対して苦い笑みを浮かべる。何を言えば良いのか分からなければ、何を言っても無駄だろう。
「しっかり指の間からノゾいてナニ言ってるんだ」
「ちがっ!」
「へぇ?ほら、見ろ。あの扇情的な格好。見ないのか?もったいない」
は些か困ってしまった。ゼロの悪ふざけを止めるべきなのだろうが、やはり言葉が見つからないのだ。目が合い、気まずそうに顔をしかめるオーディンに「ごめん」と謝ることしか出来ない。と、視界が反転して、先程までオーディンを映していた双眸はゼロに置き換わっている。押し倒されていた。
「な、に……?」
「アツいそれを少しは俺に向けてもイイんじゃないか?」
ゼロは喉の奥で笑う。言葉のやり取りを彼は期待などしていなくて、訝しんでみせる
の顔を見るのが好きなのだ。まさに今、異を唱えようとしている
の顎を掴むと、薄く開いたままの唇に口付ける。それはとても簡単なものではあるのだが、ゼロを満たすには充分なものであった。
「だからせめて!俺の知らないとこでやってくれよ!」とはオーディン談である。