「トリック・オア・トリート」
「は?うそ、マジで言ってる?ロイドさん??」
よもや彼の口からそのセリフを聞けるなんて!とだいぶわざとらしく驚くは辺りを見回す。みたところライナスやラガルトといったけしかけ人候補のすがたをみつけることは出来ない。なら、彼独断のそれなのだろう。確か烈火の世界ではハロウィンのイベントはなかったように思う。自身も自身の世界でテレビ越しで知るほどに馴染みが薄い。
それでもどういう催し物であるかくらいは分かるほどには自分達の世界には浸透している。
そういえば去年もやったか?と、思い出したがその頃はロイドと親しい仲ではなかったため彼が何をしていたかは知らない。
まさか去年も参加していたのだろうか、特殊なコスチュームを纏う仲間たちを思い浮かべるのだが、異常で何とも形容しがたい感覚だ。
「マジだ」
「事前にフリを送ってくれないとわからないです」
ポケットの中を探るが、どこぞの盗賊のように菓子を持ち歩いているわけでもないので手は空ぶるだけだ。分かりきったことなのにわざわざそうして見せるのは、彼のノリに付き合うつもりであるとの意思表示の1つだ。
残念、とポケットを叩いて両手をあげる。ロイドは形ばかりのタメ息を吐いてはカツンと一歩歩んだ。
「あ、やっぱり?」
「トリートがなければトリックだと言っていたぞ。エクラが」
犯人判明!!!
むりやりとは程遠い緩さで壁際におしやられるの脳内には笑顔の召喚士が1名。つい先程まで仕事を手伝っていたのだが、恩を仇で返すとは、と黒いそれが多少滲んでロイドへの笑みに混ざるのは致し方なかったかもしれない。あくまでロイドには柔らかい笑みを浮かべているのだが、彼にはお見通しなのか“そう怒るな”とたしなめられる始末だ。 持続するほどの怒りかあるわけではない。彼もまたイタズラであったのだ。
「イベントに乗っからなくても良いのに」
んー、と唇を突きだして待ちわびてしまうとそれはトリックにはならなくて、ロイドは苦く笑う。
どっちが恩恵に預かったのだか分かったもんじゃない、と。
それでも両者には良い切っ掛けには変わりなく、お菓子を求める仲間たちの間では非常に目のやり場に困る空間を作り上げるのだった。