くるしい。そう思ってもこのくるしみから逃れる方法など思いつかない。いや、逃げ出そうとはしているのに、そうした先からすべて阻まれているのが実のところだ。
「ん、……ッは」
僅かな隙からかろうじて酸素を取り込む。と、彼は笑った。
「鼻で息をすればいいんじゃないか?」
「……そうだけど」
まるで他人事だ。
彼は簡単に言うが、執拗とすら言える口付けは酸素すら奪っていくから息が上がる。そもそもの原因は他ならぬ彼なのだ。
そうした不満が顔に出ても、彼は顔色を変えもしなければ取り繕いもしない。
す、とまじめな顔をしたかと思えばまた唇を奪われていた。
びく、としても両の手を頭上で縫い付けられていて、多少は体重を逃してくれてはいるのだろうが、しかし男に乗りかかられては重い。そこに執拗な口づけが加わるのだから、涙目になるのは当たり前のことだった。
いつの間にか拘束がとかれている。代わりに服の中に手が入っていた。やけに熱い。服の隙間から外気が入ってきているからだろうか。
「あ……っ」
ぎゅう、と鷲掴むのに指先が優しく乳頭を撫でた。もう体はロイドとの関係に慣れきっている。だからその先を頭が先行して予測して、じんわりと体を熱くさせていく。期待しているのだ。
無遠慮にぐいと肌着ごと服を捲し上げられる。ツンとした頂きごと口に含まれたかと思うと、柔らかな舌肉が絡んだ。
「ん、ん……っむぅ」
指先を咥えて漏れる喘ぎを堪らえようとしても、そうはならない。それなりに回数をこなしていけば、彼は他人の体のことだというのに理解を深めている。
体の線をなぞる手が下肢に伸びる。下着の間にすべり込む指が、秘裂を撫でて躊躇いも見せずに侵入する。声を出すよりも先に口をふさがれていた。
「ふ…、っん……!」
体がビクとはねそうになるのを、上から体重を押し付けられる。彼にはすっかり暴かれてしまったいい場所を的確に探り当てられて、強く刺激されている。与えられる全てに身を任すなら、ずいぶんと欲深くそれを求めてしまうのをは感じている。
曲がった指が腹側のざらついた箇所を強く押し始める、と、耐えられない波が大きく襲ってくる。我慢など大してできず、足先に力がこもる。体を離すロイドが、指で執拗にそこを刺激し続けるから、涙すら浮かんだ。イク感覚は一瞬であれ意識が飛ぶから慣れない。眠りに落ちる瞬間の手放される意識とは違って、勢いがあった。
枕の下に手を差し込んで、強く掴む。体の中心で疼いていたものが弾けるのに合わせて、熱が全身へ行き渡るその感覚はのぼせた時のように頭を虚ろにさせた。
「ん、ん…っ、あぅ……」
「。まだへばるな」
息を吹き返させるように、けれどもその実奪う口づけにの顔は歪む。苦しいのだ。だがそれを気付け薬の一種とするなら彼は正しいかもしれない。
「は、ッ……ああ!! ま、だイってる、から……ッやめ!」
ロイドはの言葉を待たない。すっかり準備の整った膣内に陰茎を突き立てる。強引にことをすすめる彼は珍しい。屹立した雄を包み込む悦楽に顔を顰めながら、息を一瞬ついたかと思えばすぐにをゆすり始めた。早急に終わらせたいのかといえば違う。性欲は人並だろう。ただ、どうしようもなくたまる感覚がある。今がそれだ。
まだ始まったばかりのカラダは、自分を少し拒む。拒むが望んでもいる。堪えられずに溢れる甘い声が彼女の本心だ。
控えめにが腕に触れてくる。そうして彼女に誘われるままに小さな体を抱きしめ、最奥に先を押しつける。びく、との体が跳ねて、ぎゅうと抱きついてきた。
濡れた唇が薄く開かれている。短く乱れた吐息が漏れるがまだ終わらせてやれない。宥めるような口づけをして、赤みが差した首筋へ顔をうずめる。あからさまな位置に薄い跡を幾つか残った。
「ずるい。私もやる」
「あとでな」
不満を持った手が緩く振りかぶる。それを掴んでロイドは上体を起こした。
ぎりぎりまで引き抜いて、勢いをつけて挿す。の不満はあっけなく四散して、与えられる快楽に善がるしかない。乱暴に思える動きも、整ってさえしまえば待ち望んだものの一つになる。
「やッ、ず、るぃっ……! ……ッ、アん!!」
性急でいて、強い。肉のぶつかる音に粘着性のある体液が絡む音が交じって、行為の生々しさを室内によく響かせた。
「はな、はなして! も、声…、んっ!」
の嘆願をロイドは聞き入れない。声を聞いていたいし、揺られる胸元も見ていたい。自分の与える悦楽に蕩ける顔も貴重だ。声を抑えようと枕に顔を半分押し付けるの体は赤く火照っている。これが征服欲というやつなのだろう。
ひときわ引きつった声に合わせて、の手が指先までピンと張る。ぎゅうと膣壁が狭まってロイドの雄を強く締めつける。そこから逃げるようにロイドは引き抜いた。
抱えきれない余韻に体を震わせて、は枕へ顔を埋め隠す。それだけならまだしも体ごと反転してしまった。
――まだロイドは終わっていない。だから彼がの上に乗りかかるのは理にかなっていた。
「ひぁっ!?……ンっ、あ!」
足が閉じていても問題はない。挿入は可能なのだから。
切っ先がの中のザラついた部分を撫でる。
「や、だも……ムリ、っんぁ!」
なんとかして抜け出そうともがく体を、ロイドは自重で難なく押さえつける。足が開かないように跨いでの挿入だからか、強くロイドを締めつけていた。彼女の足は諦め悪くバタつく。
今日の行為の中で一番の刺激になっているのだからやめることなどしてやらない。
「。窒息するぞ」
「ん、んっ、あ、あっ……、ン!」
枕に顔を埋めっぱなしのが心配になる。細い背骨に指を這わせ伝えると、弓なりに反る。
脇の下から腕をもぐり込ませて体を密着させる。うめき声のようなものに変わるのは、彼女の子宮口に触れたからだろう。無意識なのか、望んでなのか手が触れあうと握らなければならないような気になって応じる。
「あッ……、奥、にあてない、で……っぁう!」
「ムリだ」
「なん……か、ちかちか……して、ぁあ!」
「」
力いっぱいに握られる強さが彼女の限界を伝えていた。「我慢しろ」と自分勝手なことを言えやしないが、事には及んでしまう。同じような力加減で握り返したあと、できる事といえば終わらせてやることくらいだ、正直まだ足りてはいないのだ。
とん、と最奥を突く度にの下半身は強ばる。終わりへ意識を向けるなら、膣と臀部の柔らかな肉感が性急にそこへ誘導を始めるのだから単純だ。
悲鳴のようでいて、思考を失った喘ぎの中で時折名前を呼ばれる。切なげなそれは行為に因るものだったが、ぞわりと自分の中の欲をかき立てた。たったそれだけのこと、と少し情けないような気もしたが、体は正直だった。我慢が限界を迎えて、体がブルリと粟立つ。と、の胎内に無遠慮に、そして何度も精を吐き出していた。
ロイドの乱れた息がの耳をかすめる。頬に自身の頬を寄せるならそれは動物の挨拶に似ていたかもしれない。しかと繋がれた手は汗ばんでいる。不思議と汗っぽさの嫌な感じはなかった。
「わぁ、痺れてる」
が言うから、力を緩める。ぶわと血が通うのと倦怠感を自覚するのは同時だ。ごろりと横になる。本当は後始末があるのだが、少しばかりの余韻に浸るくらいは許されるだろう。利き手とは反対側の腕に重みが加わる。そこはもう彼女の定位置だった。
「ロイドさんは痺れてない?」
「俺のほうが握力があるからな」
開いて閉じてと繰り返すの小さな手に自分のを絡める。男女の差もそうだが、彼女は自分の知る女性たちの中でも少し身長が低い。自分の世界で、そして自分の人種の中では標準だ。と強く言われたことがあったのを思い出す。標準を強調しながら気にしているらしい。
「笑うとこあった?」
「思い出し笑いだ」
「なるほど?思い出し笑いをする人ってムッツリらしいけど……なるほど」
「ムッツリかどうかはおいても、俺にだって普通に性欲はある」
「うーん、誤魔化さないとこが男らしい」
はは、とが笑っている。ごまかす必要性が見いだせない事実を口にしただけだ。彼女は自分を聖人か何かと勘違いしているのだろうか。同じ人間であってそれ以上でもそれ以下でもないというのに。
「ところで、明日の夜は空いてるか?」
「お昼前からエクラくんを手伝う予定だから空くと思う」
「夕方から仕事にかかるんだ……来てくれないか?」
「女がいたほうが楽なやつ?」
「ああ」
「じゃあ行く。エクラくんにも言っとくね」
「助かる」
「どういたしまして」
同等だ。同じ立場の召喚者で、この国に助力する者の一人でしかない。だから城で待てと言うつもりはない。仕事に適するなら手伝ってくれと頼む。危なければ守るのはもちろんだが、傍らで役立ってくれるならそれに越したことはない。安全か、そうでないかの確証はない。それでも共に在ろうとするなら、そうしたことを出来ることが――互いへの信頼の証明だった。