底のない世界


Lloyd @ FEHeroes
Published 19.02.20
title by エソラゴト

 ロイドは少しうんざりとしていた。うるさい、と一言いえば済む話であるのを知っているのに、なぜそうしないのか。1度は着地点に行き着いたはずの話をかれこれ3度繰り返されている。おそらく、気に入る答でないのだ。だから、弟は繰り返している。

「ライナス――」

 またか、と包み隠しもせず表情にも声音にも表すが、ライナスは「でも」と続ける。全く何が気に入らないのか、ロイドは面倒にもなったし、飽きもきていた。

「兄貴ならもっといい女を選ぶ。つーか、選べる。選んでくれ」

 ことさら、ライナスが気になるのはロイドの恋人についてだった。相手をよく知らないのもそうだが、一人の女とよろしくやっているのが面白くなかったのか――唯一の血縁者は目くじらを立てている。いい年をしているのだから許してもらう必要はこれっぽっちもないわけで、ロイドはいつも流すのだが。

「お前だって最近は仲良くやれてるだろ?」

 自分のことを棚にあげやがって。とロイドは言った。よもや分かるまいと思っていたのか。だとしたら弟は間抜けの代表みたいなものだ。彼女から話を聞くことも、自分達の関係を楽しんでいる人間からの情報も、ロイドには届くのだから。そもそも毛嫌いしていたはずのライナスが、誰の目から見てもに対する態度を軟化させていることなど明らかだ。自覚がないのかもしれないが、弟の場合、心を許したらそこからが早い。言ってやらないのは、弟の特性を把握していたからだ。だからライナスは「違う」とロイドの言葉を認めない。

「世界線の違う俺らを重ねてんじゃねぇの?」
「実は俺には弟がいなくてな」
「兄貴!」
「という世界線もありえなくない」

 ふと出てきた適当な話ではあるが、考えてみればあり得なくはないだろう。共通の世界で同じ名前で、しかし性別が異なっている件をみている。当初はうろたえていた彼らも今はうまくやっているのだ。そもそももしかしたら、目の前の弟ですら細かく話を聞けば実は違っていました、となるのではないのか。

「俺が納得しているんだ。そう心配するな」
「ムカつかねぇの?」

 まるで検討違いなことを言う弟にロイドは笑う。

「心配の方がでかい」

 色んな世界線があるとしたら、彼女の想う【彼】が召喚される可能性もゼロではない。生死の有無を無視して存在しているのは自分がよく知っていた。

に会ってくる」
「……おぅ」

 分かるように説明しても良かったのだが、なんとなく弱い自分を露呈するのが憚られる。それはライナスの望まぬ姿であるのだ。



 詭弁であった。会うために女性用の宿舎に足を運ぶことになるが、好奇の視線の餌食にされる気力がない。散歩で済ませるか、と思い散策を始めると幸運にも出会った。

「ロイドさん」

 白い吐息に暖かい場所を探そうにもない。人目があってもよいなら談話室を兼ねた食堂になるだろうか。弟と相部屋になってからというもの、勝手が悪くなった。集団生活の悪しき部分だと思っている。
 手を差し出された。妹と何らかわりない甘え方なのだが、何かが違う。

「こんな寒空を歩き回って、酔狂な奴だ」
「自己紹介でしょ、それ」
「それもそうか」

 正直なところ、いい年をして手を繋ぐというのは中々恥ずかしいものだ。これが明らかに幼い妹であれば違うのは、家族愛とは違う情を感じている証拠なのだろう。ポケットにいれようものなら尚更だ。「あら優しい」などと茶化しているそれには聞こえないふりをした。
 寒さを凌げる場所、を思い浮かべながら歩き出す。会話は思い付かない。味気ないだろうに、頭ひとつ半ほどか低い位置にある顔を盗み見れば、穏やかだ。ポケットのなかで繋がれたままの手がひどく惜しい。

「寒いな」
「うん」

 もったいない。逃したくない。そんなことを思ったのがずいぶんと久しく、戸惑っている。不安な気持ちなど伝染ばかりして良いことなど無いというのに心が定まらない。

「ロイドさん」

 不意に歩みを止めたに名を呼ばれて立ち止まる。「あっちに」と、言う彼女はどうやら寒さを凌げる場所を思い付いたらしい。暇があれば散策しているというから、おそらくは自分よりも城内に詳しいはず、とすれば付いていくことに迷いはない。
意外にも彼女が選んだのは備品庫だった。

「今、鍵の修理を手配してるから今日くらいしか、ね」

 風がないだけで体感はずいぶんと変わる。手を引かれ、壁に背を預けて座り込んだ。寒くない、とは言えないがマシではある。いや、そんなことはどうでも良かったのだ。

「どうした?ん――」

 驚き半分、嬉しさ半分といったところか。向かい合うようにが膝に跨がってきたのだ。主導権を主にロイドが握ることが多いのを思えば、珍しいことだ。そこに彼女からのキスが加われば尚更かもしれない。

「何か言われた?」

 問うわりに、ちゅっ、ちゅっとキスをやめない。答えを聞く気などないかのように――分かっていたのだろうか。それとも彼女が何か言われたのかもしれない。
 触れ合うだけでは物足りなくなってきた。煽ってきているのはだ。いや彼女なりの甘やかし方なのか。自身の顔を掴まえているその手を掴み返しす。視線をまともに交わすと今更ながらの恥じらいをは感じたらしかった。
 薄くひらいた唇が言葉もなく誘ってくる。重ねるだけにとどめてみれば、焦れったく思ったかぬるりと舌が入ってきた。抵抗なく受け入れれば、満足したのか多少こもっていた力が抜ける。掴まえた手を振りほどかれたが、より密着を求めるように首へ抱きつかれる。当たり前のひとつだが、押し付けられる胸の弾力が心地よい。耳元で、言葉ではない少し弾んだ息が触れてくれと言っているようだった。
 シャツの隙間に手を差し込んだ。ロイドが暖かさを感じる一方で、は冷たく感じている。一瞬ためらいを覚えほど、彼女の体が跳ねるのだが、堪えるのがわかるから続けた。
 ふに、と柔らかい感触がある。程よい張りが手に馴染み簡単に形を変える中で、つんと固くなる箇所がある。少し強めにつまみ、ぐりぐりとこねくりまわせばの腰が浮く。シャツをまくりあげるが、月明かりしかないこの場所では、薄く色づいたであろう肌を確認できないのが惜しかった。

「あッん……!」

 尖った先を口に含み、舌でこりこりとしたそこを刺激する。次いで吸い上げると、の腰が揺れた。ぐり、と股間を押し付けられる。ここまでしておいて、そんなつもりは――と言うつもりはないが、興奮のあまりに仕出かしたくはない。
 不意に篭が目についた。まだ洗濯されていないシーツが入っている。誰が使ったのか分からないが、固い木の床でそれも土足でいるのが当たり前なのだ。固い床で致すことに変わりはない。ただ痛さはマシになるだろう。そしてこの体勢を逆転するなら、やや分が彼女にある現状をもひっくり返る。ロイドなりのプライドだった。

「ロイドさっ……」

 適当に取ったシーツを投げるように敷いてその上に押し倒す。そのまま服を脱がしにかかるのだが、肘で引っ掛かってしまった。顔からは抜けていたが、それは束縛のようにの両手に絡まっている。ロイドは構わず、自身のコートを脱ぎ捨てると、覆い被さった。服の絡みを解こうとするのを助けながら口腔内を貪る。甘い。
 絡みから解放された手がロイドの肩を、胸を、服の上から撫でていた。腹部に到達してベルトを見つけると感覚だけで抜きにかかる。単純な構造のそれは攻略というには大袈裟で、寛げてしまうとズボンの中にこそ目的の物があるのだとは憶さず触れてくるのだ。そうした積極性を見せられると言い様のない興奮があった。
 の手がそうしたように、倣って下肢に手を触れる。下着とともに下衣を脱がせた。羞恥か、冷気か、閉じる足を開かせ、既に湿り気のあるそこへ指を差し入れる。腹側を擦り、ぷくりとふくらむ花芽を強めに親指で押さえつけると甘くもくぐもった声が漏れた。いつもとちがい整った場所ではないことが、確かに気持ちを昂らせている。
 挿れたくなった。
 大きく足を開かせ、とうに屹立したそれをあてがう。先端が秘部をこじ開ける。小さな呻き声がしかし、快感の色を帯びていた。最奥に一気に押し進めてしまえば、体が弓なりにしなる。ぎゅうと握られるように膣が締め付けた。

「はっ…、ぁ」

 伸びた腕に誘われる。合図でもあるそれに腰を動かせば、普段とかけ離れた声が漏れた。緩い律動にもかかわらず、ぐちゅぐちゅと突く度に愛液が溢れシーツを鼠色に染める。
 抱き締めた。動きを止めて、子宮口へぐいと押し付ける。呻き声とは裏腹にそこは収縮して、ロイドへ快感を伝えた。

「あ、アっ、…ッ」

 内壁の収縮に応じて、時折ロイドの陰部がうねった。大した刺激ではないだろうに、触れている場所が場所だからか、は身を捩り、感覚を持て余している。
 常であるなら体勢を変え、感じ方の変化を楽しんでいた。今日はそんな気分になれない――顔を見ることの出来るこの体勢がしっくりきている。抜ける際まで引き抜き強く腰を打ち付ける。ずるずると堪らない感覚だ。艶やかな矯声を発する口を自身のもので塞いだ。

「ん…ふぅっ……は、ぁ、アんッ!」

 息苦しくなったの顔を背けるも、ロイドはしつこくの口内をなぶる。

「ロイ、ドさ…、……って……んン」

 顔を背けた拍子に差し出すように向けられた耳穴に舌をいれると、大きな快感を得たのか、強めの力で体を離そうと押し返される。だが、微々たるそれに何の力もない。

 名前を呼べば、びくりと体が跳ねた。耳が熱を帯びていた。その耳に、見慣れたカフスがある。沸きたつものがあったが、それを口にしても、良いことは何一つないのを知っているからこそ、ロイドはそれを押し込めるほかない。そして、彼女から与えられるものを信じる以外に、伝えかたなど思い付かないのだ。
 の手がロイドの腕をすべる。撫でていたのかもしれない。ぶるりと何故か震えてしまった。同時に射精欲が強くなる。乱暴に動いてもそれはただ顕著にいや益々強くなる。それはも同じだ。明らかに快楽に翻弄された喘ぎ声が、時折、正気をちらつかせているものの、昂りに抗えてはいない。

「あ、ぁあ…!……ィ…い、……んんっ!」

 息があがる。そうした声を出させているのが自分だという征服感が在る――一時的なものであっても。
 自分でも陰部が固くなるのが、太くなるのが分かった。単純さに笑えてしまうが、その程度なのだ。自分という人間は。

「も、だ…めぇ、…い、……ッく!!」

 ぱたん、と体の力が抜けて、それは人形のようだった。荒い呼吸があるから彼女は生きている。時折、体が痙攣して、弛くなった内部に、広がる空間に、応えるようにロイドは吐精した。
 離れがたい。強く思った。行動に対する付属物しかないのかもしれない。けれども追求する意味を見いだせないからそのままだ。
 動物のようなついばむ愛撫で、余韻に浸る。ふと強く吸い付いた。痕を残すことに執着したことはない。明確な意味は説明出来ない。おそらく、そういうものか、彼女も納得するほど唐突だっただろう。

「は、は……ぁ、ロイドさ、ん」

 痕を残す行為を咎めることはない。ねだるような表情を無下にすることはできず、応えた。
 一頻り余韻を楽しむと、難しいことを考えることはもうできない。自ら進んで底に落ちるほど自虐的ではなかった。充足感に身を投じたまま、の体を抱き起こす。

「部屋に来るか?」

 服を着せてやりながら訊いた。いや、誘った。
野暮な他意はなく、部屋でただ過ごすだけだ。異性を、彼女を連れ込むのは初めてのことではない。身ごろを整えたは考えるまでもないと頷く。ライナスのことを考えていないわけではない。歓迎されないことを容易に想像できるのだが――仕方がない。偉そうなことを言っても自身が一番明確な答えを出せないでいるのだから。


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