飲み込んだ言葉
Linus @ FERekka
Published 19.01.17
title by 追憶の苑
やっちまった、という感覚が彼にはあった。ベッドの上で気持ち良さげに寝息をたてる
に侭八つ当たりの苛立ちを覚えてはため息が漏れる。今なら引き返せた。彼女を抱き上げ、廊下に出て、奥にある
の部屋へ連れていってしまえばよかった。触れるのに躊躇うのなら彼女をそのままに、隣の兄の部屋に逃げれば良かった。兄は任務で不在だ。勝手にベッドを使うなと咎められるだろうが、大したことではない。
逃げ道は確かにあったのだ。
ベッドを占領してしまった彼女のそばに腰掛けると、疲れていないはずなのにもう立ち上がる気力はない。ただただ、どうしようか、と悩むふりをして時間を消費している。兄が居ないのも一因だ。居れば歯止めになっていたに違いない。
「はー、何やってんだよ、俺は」
ガシガシと頭を掻いても事態は好転しない。ぎりぎり平静でいる今に最後の選択を迫られている。だらしない寝顔を見れば気の迷いだと思えるはずだ。
と、ライナスは振り返る。壁に向かっている
は背中を向けている――おそろしいほどに、曲線が、女性らしさが、際立っていた。
に女を感じたことは正直今の今まで無い。思わず固唾を飲んでしまったことを自覚して、自分がおかしくなったのかと思うほどだ。
劣情がこぽんと沸き上がった。小さなそれはまだ抑えられる。はずだ。
「ライナスー、お水くださーい」
どうやら誰と飲んでいたのか分からなくなるほど酔いつぶれてはいないらしい。ただ、夜中といえば夜中の時間であるから、眠気に負けたのか。なんとまぁ図々しい。少し掠れている声のヒリヒリとした喉の痛みがわかる気がして、ライナスは部屋に持ち込んでいる水差しから木製のコップへ水を注ぐ。素っ気なく「ほら」と促すと、心底だるいといわんばかりの鈍さで体を起こす
の焦点は眠気からか定まってはいない。「溢すなよ」と、しっかり彼女の手にコップが行き渡るまで手を離せないでいれば、手を添えたようになっている。なぜここまで気を回さなければならないのかと思いつつも、ひんやりとした手の感触が心地好く感じたのも事実だ。ただ水を飲んでいるだけなのに、ただ手を添えているだけなのに、きっと、警戒心をおくびにも出さないのが悪いのだ。
「
」
名を呼んで、息が掛かるほどの顔の近さに事態を把握して、小さな拒絶があればいつも通りに戻れたに違いない。
なのに
は特に感情を表すでもなく、至極平淡に答える。顔の近さに動揺を覚えた様子もない。
息を呑んだのはライナスで、誘われたと彼は言い訳するだろう。
あっけなく触れてしまった唇がやわらかい。その後の決定権を彼女に任せるとはいえ、ついばむだけのそれはくすぐったい。不似合いな表現をしているな、と冷静な部分があってライナスは手にしていたコップをベッド脇へ落とし、自由になった手を使いそのまま
を押し倒した。
相変わらず拒絶の言葉は出てこない。どこか面倒臭くなっている自分がいる。
服をたくしあげて漸く
が反応らしい反応を見せたのだが、構わない。彼女の手は何かを訴えていたかもしれないが、知らないふりをして弾力のありそうな乳房をすくい上げた。性的な部分に触れ、彼女が女なのだと強く認識する。自分の手は体格もあって大きいと自負している。そんな自分の手から僅かに余る大きさは触り心地が良い。ただ合わせるだけの口付けが陳腐なものに思えてくる。それでは足りなかった。
「んんっ…」
わざとらしく口内をなぶる音を立てた。果実酒を飲んでいたのか甘い。おずおずと触れてきた舌をつかまえて吸うと、ちゅう、と音が漏れた。くぐもる声にうっすらと嗜虐心を煽られる。すると今まで保っていた彼女への気遣いを捨てることは簡単だった。
幾分か乱暴に手の中の胸の感触を楽しみながらライナスが首筋に食らいつく。跡が付くほどではない、微かな刺激を感じる程度の甘噛みに
は悩ましげに眉を顰め、下半身をくねらせた。じん、とした感覚に正直彼女は戸惑っていた。大したことのない触れ合いと思えるのに、性感帯というものを実感する。つん、と突き出し始めた乳首を摘ままれるとその刺激は一層強くなった。ライナスの大きな体を咄嗟に押しどけようとしても、彼にそのつもりがない以上
の力ではどうすることも出来ない。今更になって羞恥心が湧いて出たが後の祭りだ。いつでも"イヤだ"というタイミングはあって、興味本位で流されていたのは事実だ。ご丁寧に部屋へ連れてきてくれたライナスのやさしさに意外性を覚え、寄りかかってしまいたいとも思っていた。小狡くここまで事態を進めたのは自分であることを
は解っていた。
ふ、と体にかかる重みが消える。ライナスは鬱陶しそうにシャツを脱いでいた。
「見んな」
改めて
の上に覆いかぶさるライナスは、
の胸を掴んだかと思うと、からかうように突出した先端を口に含む。小さな声をあげて顔をそらすのを見て、彼は強く吸い上げた。
「あっ、…ちょ、……へ、ン…ッ」
ライナスの頭を抱えるようにして悶える
はきつく目を閉じる。甘く噛まれると足先にびりびりとした感覚が走ると同時に違和感が下半身にあった。いつの間にか脱がされたズボンに申し訳程度の下着があって、それももう役には立たない。脇からするりと伸びたライナスの無骨な人差し指が、静かに膣内へ突き立った。
「一応…、濡れてんな」
「バ、カッ…ぅ……んっ」
狭い膣内は彼女の経験の浅さを物語っていた。この世界へ来たのがほんの3年ほど前だ。それから彼女に恋人が出来たという話は聞いたことはない。その手の話に興味がないから自分の耳に入ってこないということもあり得たが、そもそも彼女が兄に夢中なことは周知なのだ。
自覚はなくともライナスは僅かな優越感を感じていたかもしれない。普段、誰にも触らせないであろう秘部の中を彼の指が緩く行き来を繰り返す。と、
は堪えるような小さな嬌声を上げた。彼の耳元で響くその声は日常のものとはかけはなれている。そしてその原因は自分なのだ。人差し指が暖かな体液にまみれ、何とかその感触に彼女が慣れた頃、中指を足した。拡げるように、柔らかくなるように、怖がらないように、そこをほぐす。時折花芽を押し潰し、目につく箇所へ音を立てて吸い付き、彼女の下半身の感覚をまぎらわせた。
しっとりと体が汗ばむ。睦言特有の雰囲気にすっかり呑みこまれていた。
「挿れるぞ」
荒い息を繰り返す最中のその言葉にまともな返事は出来ない。どんな返事をしたとしてもライナスの行動が変わることはないのだが――。
いつの間にか屹立した性器を取り出し、割れ目に先端を押し当てる。グチュ、と濡れた音に呑まれるように先端が埋まると
の体が強張った。質量が指の比ではない。それでもゆるゆると抽挿を繰り返せば馴染んでいった。陰茎が根本まで埋まるとライナスは一度動きを止める。痛い、とシーツをきつく握りしめる
を哀れに思うが、彼自身も想定外のキツさに余裕はそう生まれなかった。
「
」
宥めるような声音で名を呼べば
がうっすらと目を開ける。筋が浮くほど力がこもっている手を自身のものへ変えさせ、爪を食い込ませるのを請け負い、紅潮した頬にキスを落とした。ゆっくりと律動を始める。うねる膣内がライナスの陰茎をしっかりと咥えこんで放すまいとする。ずるずるとそれが再び子宮口めがけて押し入れば、形を捉えるようにやはり隙間なく包み込むものだから、ライナスは気を放つまいと感覚に集中しなければならなかった。
「あっ、あ、んッ、……や、ぅ」
ずるりと引き抜く感覚も、ずぶずぶと押し入る感覚もどれも頭が痺れてしまう。痛みはとうに薄れていた。それを分かっているのか、ライナスの律動は早さと乱暴さを増していく。伴ってベッドの軋む音が室内に響いた。弾んだ息遣いが、甘い声が互いの耳元をくすぐっていた。
こんなにも顔を近づけあったことがあっただろうか。恋人同士の甘い触れ合いはない。が、人肌が気持ちよくあったのは確かだ。
ライナスが手を解き
の体を強く抱きしめながら、最奥に陰茎を強く何度も突き立てる。
「ッあ、あァ、ん、んッ!」
「――っく…」
響きを増す卑猥な音が結合部から漏れている。無心に繰り返される律動に
は応えるように足を腰へ巻き付けると、一層集中して伝えられる快感に矯正がとめどなく漏れる。刹那、がぶりと首筋を噛まれた。甘噛みではあったが、快感に蕩けた体には十分なもので、
が声を詰める。同時に膣内がひくひくと痙攣を始め、ライナスを促す。体を起こした彼が自分のためにと腰を打ち付け、未だ震えるその中へ吐精を果たすのに時間はかからなかった。
心地良い疲労感がある。余韻に任せて体を抱き合い、キスをするのも悪くない。
満足であった。この関係に名前を付ける必要はない――これまでどおりが気楽なのだから。