春を祝う祭りがある。
ライナスは義妹のニノに言われて初めて、ああと思い出した。去年も確かにあった。派手な装いの英雄たちが数名、変なものを持っていた。何のため、とは考えない。世界が違えば文化はもちろん違う。ああも派手ではなかったが、こじんまりとした春祭ならばたしかに彼の居た世界にも存在していた。
「今回はさんも参加するんだって」
ニノがそう続けた情報にライナスは首を傾げる。の普段の服装といえば、世界線の違う自分たちといたからか目立たない色合いの服、というより黒い服しか着ない。時々羽織る上着もくすんだ色味のものが多い。控えめにいっても地味だ。
「賭けに負けたって嘆いてたよ」
「何やってんだ、あいつ」
「にいちゃんに怒られるって……怒らないよね?」
「理由がねぇだろ」
「だよね。ライナスにいちゃん優しいのに」
う~んと二人して首を傾げてもの考えがわかるわけもなく。
「怒るってのは違うな。なぁロイド?」
「あぁ。に同情する」
同じくその場にたむろしていたロイドとラガルトだけは得心してみせる。それがなんとなく面白くない。とはいえ、数日もすれば春祭りは始まる。その時に覚えていれば、そのまま本人に聞き出せばいいか。とゆるく考えるにとどめていた。
――数日後
ライナスは呆れて物が言えない。というのを初めて経験した。何かを無理に言おうとしても「は?」なんていう間の抜けた声しか出ない。
そうだ。派手な装いというよりは仮装だ。ライナスは思い出した。
「すげー格好してんな」
「げっ、ライナスに見られないようにしてたのに」
「なんで」
「バカにするじゃん?ほらその顔ー!」
こんな格好をするか否かで賭け事をするのも、そしてそれに案の定負けるに呆れたのも確かだ。春祭りになんの関係があるのか分からないが、彼女の頭にはたれたウサギの耳がついていて、体の線がよく分かる、ついでに露出のある格好に呆れないほうがどうかしている。完全に男への目の保養にしかならない。
「シャロンの時は露出してなかったのにサギだ……」
「負けたのが悪ぃんだよ。ったく、俺はウサギを連れて露店まわんなきゃなんねーのか?」
たれた耳をちょんと引っ張ると、髪留めがズレるのかが小さく怒る。
「ほら行くぞ。どーせ祭りの雰囲気作りとかいう名目なんだろ?」
「よくわかったね」
そもそもライナスは日中、街中を歩くつもりはなかった。日が暮れたあとにか、都合が悪いなら他の仲間と出るつもりだった。そんな彼の都合など構わずにのところに行けといったのは、彼女と一つ賭けをして勝ったアンナに他ならない。理由を問うても「行けばわかる」としか言わないから、納得はしていない。恋人だから宥めろというなら、そもそもそんな格好をさせなければいいのだ。ただ、ライナスが彼女の言葉の意味を知るのはすぐのことだ。
そりゃそうか。と納得するライナスは、のむきだしの肩に腕を回していた。歩調もいつもよりだいぶゆったりとさせて、彼女に合わせている。
春祭りのためとはいえ、いやその必要があるのかというくらいに、彼女の格好は男の心をくすぐる。他にも駆り出されている、顔だけ知っている英雄もまた、女性限定であれ扇情的な装いの者が多かった。
国全体が浮かれ気味の今、寂しいお一人様はさぞ躍起になって声をかけるだろう。かける勇気がないなら、頭の中で……とは考えたくもない。
先程、の胸元に目が釘付けの男を見た。ウサギだからと尻にはしっぽがついていて、そちらも例外なく男の目を離さないらしい。
「一人でなくて良かったな」
「なにが?あ、セレナとアズールだ」
ライナスの気疲れなどにまるで気づかないは、同じように駆り出された仲間を見つけてはのんきに手をふっていた。
「ねー、もう、脱ぎたいんだけど。ずっと隣りにいたよね?」
「隣を歩いてただけで見てねぇよ」
「花より団子」
「あのなぁ……お前、今の格好わかってんのか?」
「かわいいウサギ?」
ライナスの部屋に当たり前のように連れられて、までは理解したが膝の上に乗らされた意味は分かっていない。
祭りの雰囲気にあてられたのだろうか。首を傾げて普段言わないようなことをは口にする。一瞬、呆気にとられてしまうものの、これまた珍しくライナスの口からも否定や揶揄のたぐいは出ない。彼もそれなりに祭りの雰囲気にはあてられていたらしい。人が祭りで出払っているのもあったかもしれない。
「ロイドさんは?」
「夜警だと。ま、祭りには必要だろうな」
そんなことより。話を遮ってライナスは、膝の上のの尻を撫でる。大きすぎも小さすぎもしない。そう魅力を感じたことはなかったが、見てくれと言わんばかりに今日のよそおいは強調している。他の男ばかりがそうした気を起こすわけではない。
「ちょっとライナス?」
「なんだよ」
「なんだよっていうか、」
ビク、との体が震える。勝手に体に触れて、勝手に下肢の一部を固くしているのだ、彼は。驚いて腕を突っぱてみても、ライナスにはどこ吹く風なのか。ゆるく前後にの体を揺らしながら押し付けるのだ。当たり前の行為だというように。
「脱ぎたいんだよな?」
「ふつうでおねがいします」
「却下。うしろか?」
の小さな体を抱き寄せることなどライナスには造作ない。ぐいと、自身の胸に押し付ければ小さな悲鳴が上がったが聞こえないふりをする。もとより聞く気もない。彼女がこんな格好でうろついた、そしてあどけないように魅せるあざとい挑発に乗っているに過ぎない。
ぷつん、と留め具が外れる。慌てて胸を隠す意味がわからない。背骨に指を這わせ、の顔を上向かせる。噛みつくようなキスはもう幾度となくしてきた。
「んッ……ん…、」
抵抗がそぞろになった手を掴んで、首にまわさせる。あっさりとこちらの意を汲んで、自ら舌を絡めてくるのに気分が良くなる。息をするのも惜しい。
そう思うくらい早く抱き繋ぎたい。できることならすぐにでもそうしたい。が、痛がるだけでよがらないのは萎える一因だ。
つ、と溢れた唾液を追いかける。甘い声が震わせた喉は餌だ。ぢゅ、と音を立てて吸い付く。跡がつこうがどうでも良い。自分には関係ない。さらけ出された胸をむんずと掴むのも良かったが、ようやく触らせたのだ。もっとよがるような方法がいい。
口に含んだ彼女の胸は柔らかい。舌で固くとがりつつある先を舐め転がしながら強く吸い立てると、鼻から甘い声が抜ける。
の冷たい指先がうなじをなでる。好きにさせていると服の隙間にもぐりこんでくる。かと思えば、服を引っ掛けて脱がせてきた。積極的なのは珍しい。ぞわ、とただ服が肌をなでたに過ぎないというのに、気が昂ぶる。
それを察したのかはわからないが、はわずかに躊躇いを見せながらライナスの下衣のボタンに手をかけた。
「やんの?別にムリしなくていいぞ」
祭りはずいぶんと彼女を楽しませたのか。それとも無理に付き合わせたとでも思っているのか。それなりに自分も楽しんだのだが、それは伝わっていないのだろうか。
膝から、ベッドからも下りるが前かがみになる。おそるおそるといった手つきで、下着の中から押し上げる陰茎を取り出すから、ライナスは気恥ずかしさを感じる。彼女が男根を注視するのもそうだが、そんな事で恥じらうほど初ではない自分をやけにくすぐるのだ。きっと伝染している。
「……ッ」
生暖かい。苦しそうに眉根をよせながら、が先端を口に含む。張り出した部分に舌が這うと、腰がうずく。唾液を絡めながら音を立てて、顔を上下に動かすが刺激は小さい。それでも何とかしようとしているのが伝わるから無下にもできない。
「んぐ……ッ」
もともと単純なのだ。自分をそう理解しているライナスは、その単純さが自身の陰茎を固くしても当たり前だと思っている。
苦しいならやめても良いのだ。体格差ゆえに生じる不具合など今更で、気に病む必要のないものだ。が、そうであるからこその喜びもある。大していいものでもないそれを、ただ自分のためにしごいてくれるのだ。興奮しないわけがない。
「」
その興奮は分かりやすい快感を望んでいる。彼女の胎を望んでいて、腕をつかめば意思は伝わるらしい。
立ち上がったの足を撫で、頼りない腰を引き寄せる。服の留め具が背後にあったのは確認したが、側部の紐もそうなのか。蝶々結びに結わえられていた紐の片尾を引けば、本来の形に戻るのと同時に効果が失われていく。先程よりも隙間のできた服の間は、ライナスの指であっても侵入を難としない。下着ごとずらして秘部をさらし、指の腹を割れ目にあてがう。わずかな引っかかりはあるものの、のみこまれていく。余裕はあるようで中を掻き回すなら、熱いものが絡んでびくと震えた。
片膝が上がって、それ以上に触れることを促している。指の根元まで埋まるのだから、頃合いは良い。
「はやくねぇか?」
「はやくない」
肩を支えに、両膝で今度は乗り上げてくる。濡れそぼっているそこに、勢いよく屹立した先端が触れる。ゆっくりと自重で入り口を押し開くは、先にある快感を知っている。浅い息を吐いて、中で目一杯存在を主張するものを彼女は確認している。腰を支えるライナスの手が、ゆるくの体を揺さぶって表情をうかがった。
「んっ……」
体重をかけてきたかと思えば、自ずから腰を浮かせて落とし始める。口淫もそうだが、いつもよりだいぶ彼女は積極的だ。
が動けるように、快感を大きく取り込めるように、ライナスも動きに合わせながら下から突き上げる。まだ挿入して間もないからか、膣内の締めつけが強い。
「あ、ァ……っん……ぅ、はぁ…ッ!」
その強さが原因なのか、彼女はライナスが思うよりも早々に動きを緩めていく。は快楽に弱い。
甘えるように抱きついて、耳朶を噛んできて後を任せてくる。ずるいと思わないでもないが、鍛錬でもすぐにへばるのだから仕方がないのか。それにその快感はライナスにとっても好物だ。そんなことで止めるなど、あまりにも馬鹿らしい。
耳元で切なげに啼かれて、の腰を掴む。彼女が望むままに奥へ切っ先を突きつけて数度、あえぐ声がやんだ。抱きつく力も弱くなっている。
「イケたか?」
汗ばみはじめた体が小さく揺れている。息を整える彼女の返事を待たず、ベッドの上へ寝転がらせる。剥くように崩れた衣服を脱がせるが、抵抗はない。腰を浮かさせて、下着もろともなされるがままだ。
との交接にも慣れた。腰の下に枕を敷いて膝裏を抱えて足を開かせる。や、衰えのない肉棒を突き立てた。衝撃にが体を反らせるが、一過性にすぎない。同時に自分にもそういう衝動がふつりと沸くのだが余裕はあった。
そうして彼女に余裕が戻るまでの間、ライナスはの足を撫でる。体の当たり前の部位を隠す服は先程脱がしてしまったが、足にはまだ履物がある。それは不思議な光沢を放っていて、貴族が履くそれとは違う。このあらゆる世界線が交差してしまう場所で、自分の知らない物に出会うなど珍しくはない。足をきれいに見せるため、と説明されたのを思い出したが、ああそうと思うしかない。光沢のせいなのか、いつもより艶っぽく見えた気はする。感想を問われるなら素直にそのまま答えるが、更に本音も付け加えるだろう。色々とめんどくさくないそのままが好きだと。
「ライナスっ……なに、ぁん……!」
だから彼はそれを問答なしに脱がす。たまたま彼女の中のイイ部分を刺激してしまったかもしれないが、不可抗力だ。ベッド下に捨てるように放り投げ、彼女の意思がこちらに向いたからとライナスは緩く律動を始めた。
焦らすつもりはない。その必要もない。既にの膣内は十分に潤っている。動きを促すために体液が溢れさえしていた。そうして溢れるごとにライナスの動きを助ける。
規則的に軋む音を咎める者は不在だ。
艶っぽい喘ぎ声に対しても、当人が抑えようとしているのに部屋のもう一人の主がそうさせない。
「あ、ァ!ん!…、ッん!」
張り出した亀頭が中を引っかくのも、奥にある子宮口を叩くのも、に抗えない快感を運んでくる。悦楽一色に染まりはじめる思考は、染まりきるまでこの行為が終わらないことを知っている。
声を抑えようとした手が絡め取られて、強くベッドへ縫いつけられていた。それが体の固定にもつながって、強くなったライナスの動きを余すことなく受け止めざるを得ない。
肉のぶつかる音に粘着音が混ざるさなか、は何度か軽く気をやることになるが、ライナスの動きが止まることはない。気を失えたほうが楽になると分かるのに、そうなるほど弱くもない。普段とは違う自分を否応なくさらけ出される。
ライナスの鋭い目が、じぃとを見据えていた。律動は止まない。
「んっぅ、あ!は、はぁ、見な……ひ、っう!」
快楽にとろけた顔などだらしないだけだ。息を多少乱すだけの彼は、ほどに悦楽に顔を歪めない。自分だけが良いようにされているのは悔しくて、悪態にならないそれを吐き出したところで、ライナスに強く突かれて言葉が奪われる。
「素直に啼いとけって」
シーツに縫い止められたままの手は、変わらず彼の手の中にあった。手首を掴まれて引かれる。ひっきりなしに中をえぐりながら最奥の壁を叩かれると、あったはずの余地がなくなっていた。
軽口が消える。互いの体液がこぼれてぐちゃぐちゃと汚れているのに嫌悪感がない。
「ライナ、ス……っ、あぁ!あぁっ…!」
ゆるくあった快感は、ライナスの激しい動きに呼応するように形を変えている。発せられ続ける悲鳴が泣き声に似て、大きくなる快感を持て余しているのを伝える。爪が立つほどはライナスの手首を掴み返して、熱っぽい瞳で彼に訴えるのだ。
惚れた弱みというやつなのだろうか。不審、その印象が強かった。それしかなかったのだ。あの時までは。
「アっ、ア…!ん……も、む……りッ!」
掠れた声がライナスの名を呼ぶ。
顔を仰け反らし、太ももを震わすに合わせて、ライナスもまた腰を押し付ける。不規則に始まる痙攣と収縮が陰茎をぎゅうと締めつけてくると、それまでの我慢を手放さざるをえない。吐精は完了していない。一息つくでもなく、ライナスはの体を引き寄せ起こした。
「ん、ライナス…、まだ出てる…っん…」
「いいから」
唐突にはじまるキスに戸惑うのはだけだ。熱を控えながらも、角度を変えながらのそれが続いてむず痒い。さらには胸元にも当たり前のように跡を残していく。ライナスの情は知る限り直線的で太い。だから方向の転換は困難を極める。
「あ、つけすぎだって!おしまい!」
「はぁ?俺以外見ねぇだろ」
「女子のお風呂場は怖いんだよ」
「見せびらかせてやれ」
人の悪い笑みを浮かべるライナスは本当にそう思っているのか。応酬に頭を悩ませるを気分良く眺めながら、そういえばときれいに存在を忘れていたものを思い出す。単純に大して邪魔でなかったから放置していただけのヘッドアクセサリだ。あれだけ動けば流石に乱れてしまって、ぐしゃぐしゃになったの頭から取り上げた。
「そういや揃いも揃ってウサギなのは何でなんだ?」
この春の祭りのなりたちを知らなければ、あまり興味もない。そんな中で唯一の“なぜ”ではあった。
「子孫繁栄ってエクラくんが言ってたけど」
「子孫?……ああ、多産の生き物だな」
「ネコ耳のほうが可愛かった?」
「そういうのはあんま分かんねぇんだよ」
手の中の飾りを衣服同様にベッド下へ落とすライナスの興味は、本人にしかない。
顔を近づければ、ためらいを見せながらが応える。彼女の中で熱は完全に収まっているが、構うことなく首に甘く噛みついた。
「え?ライナス?本気?」
意図が伝わって、慌てて腕を突っぱねるものの彼女の中にまだ入ったままなのだ。完全に萎えてなどいなかったことを知っているはずだ。そして彼女の中の感覚を意識すれば、固さを取り戻すのも容易い。
「兄貴はいねぇし、春祭りの趣旨に合ってんだろ?子孫繁栄」
「それ絶対ちが……っバカ!まってまって!!」
明日立てなくなる!といくら騒いでもライナスは聞き入れない。兄が言うのは自分がいるときに致すなという話であって、別に彼女が部屋に入り浸る分に咎はない。おそらく。わずかな不安が生まれもしたが、確定要素だけを見るならやはりこの機会を逃すのは惜しい。本気の抵抗も見られはしないし、形だけの“イヤ”だと分かる付き合いにはなった。
なあなあとして始まるそれにが流されるのは時間の問題だった。