自室のドアを開けて一歩踏み入れたというのに、は踏み入れた足をもとに戻して廊下を見た。一番奥であること、すなわち自分の部屋というのを確認する。そして後ろ手にドアを閉めながらベッドまで歩いて、彼女は言った。当たり前のように寝そべる男に。
「ライナス。部屋、まちがえてるよ」
「んぁ?やべ、寝てた。お前遅いんだよ」
「いやだから」
「るせぇな。間違ってねぇって。待ってたんだよ」
よ、で勢いをつけて体を起こすライナスは、本来の部屋の所有者であるへ場所を明け渡す気はないらしい。大股を広げてまるで自分が主だと言わんばかりの態度のでかさではあるが、今に始まったことではないのかが気にかける様子はない。「寄って」と慣れたようにライナスの太い腕を押しどけようとするのだが、彼にその気がなければ大岩のように頑固で動かない。かと思えば、自分のための行動ならすんなりと動くのだ。
急に動くものだからはバランスを崩す。しかしそれもライナスの想定通りであったから、彼はその体に動じることもなければ上手いこと抱き上げて自身の片側の膝の上へとをのせる。
「明日の夕方からしばらく留守にするぞ。あー、半月くらいか?」
「知ってる。ラガルトが教えてくれた」
「じゃあ話は早ぇな」
ライナスが笑う。犬歯が見える、なんて思っている暇はない。体格差のせいか、ライナスの膝の上に乗ってもの頭は彼の肩に届くかどうかで、大きな手が下から顎をすくいあげて、唇が合わさる。それから当たり前のように服の中へ手が入り込むから、はライナスの首に腕を回した。
「お、物分かりがいいじゃん」
「そりゃ……ぁ」
こつん、と額を当てるライナスはくしゃりとした笑みを浮かべて上機嫌に言うと、そのままのシャツを頭から脱がせていく。現れた細い首につぅと舌を這わせて、外向きの乳房に触れるとの体はビクリと震える。すると堪らなくなったというように、ライナスの大きな手がそのまま強く乳房を鷲掴んだ。手の中におさまるそれが大きく形を変えると同時に、むくむくと先端が尖る。指先で捏ね回していくと、が下肢をもどかしそうに揺らした。
ライナスの太く長い指が胸から腰に滑り、臀部の丸みを経て、下着越しに秘部へ触れる。指先にじわりとした感触がある。横へ布をずらし、入り口を撫でれば期待に溢れた蜜があった。
「ライナス……、」
羞恥心を誤魔化すようにが自ずから口付ける。あまり上手くはないが、彼女なりに必死なのは薄目で窺い見るライナスにも分かっている。内股を擦り、焦らすのはそうした姿を長く見ていたかったからかもしれない。
つぷ、と指先が秘部に沈む。熱くうねる肉壁が侵入を良しとしない。が抱きつく力を強くするから、ライナスは彼女の背中を支えながら、また足を開いて深く指の侵入を許そうとするの動きに合わせてゆっくりと指を沈める。耳を艶に濡れた吐息がくすぐった。右に左にと手首を捻ると小さな悲鳴が上がる。グニャリとした柔らかな肉壁が指先に触れていて、指先が引っ掻けばそれが良いらしい。膝は曲がっているのに足の指先をピンと伸ばして、震えていた。
「何時もより早いんじゃね?」
「ぁ、あ……っん」
奥の壁をつつかれると同時に、太い指が周りを擦るとお腹のなかがじわりとする。幾分か早さを増した動きにチュクチュクと蜜の絡む音がして、聴覚を犯す。少し膨らんだ花芽が指の腹で押し潰されると腰が揺れて、けれどもライナスがしっかりと腰周りを掴まえているから逃げられない。じわりじわりとやって来る快感が弾けそうなその時、急にそれが止んだ。
「自分だけはズルいだろ」
ライナスは言うや膝に乗せていた体を抱えてベッドへ投げる。手をついて何とか倒れこみそうになったのを制すると、ばさりと音がする。
シャツを脱いだのかと熱に浮かされた頭がゆっくり認識している間に、やや乱暴に下着を脱がされる。ぴたりと熱く固く膨らんだ雁首が入り口を撫でて、漸く思考が追い付いてきたに合図もなくライナスは腰を押し進めた。
「あぅ!あっ……ぁ、まッ……んん!」
「きつっ……」
中程までしか挿入出来ていないのに、怒張した陰茎に張り付くように膣壁が絡んでくる。拒絶か誘いなのか、都合よく捉えるなら間違いなく後者だ。そもそも何度も体を重ねていて、無理ではないことなど知っている。とライナスの体は当に馴染んでいるのだ。ライナスの硬さを増した陰茎が根本まで突き入るのに時間はそうかからない。浅い注挿を繰り返して不意に深く突きいれれば、すぐなのだ。
「ぁ……っ、あ……!」
「軽くイッちまった?」
燻り不完全であったそれが呆気なく弾けてしまう。足が小さく痙攣していて立っているのもやっとだというのに、ライナスは後ろからの手首を掴んで、自身の悦を高め始める。
「ば、……っま、だ……ィ、…て…るっ、にッ……!」
顔だけで振り向いて抗議の声をあげても、ライナスはニヤリと笑うだけでやめるつもりはないらしい。激しく何度も陰茎が行き交うからなのか、溢れる蜜が内股を伝い落ちていく。大きな雁首が壁をごりごりと強く擦る度に視界がチカチカと瞬いて、視界にあるはずのベッドが朧気ていく。刹那、ライナスの動きが止まったかと思うと、彼は二度ほど身震いをする。彼もまた達したのかと思い至ればは何となく安堵した。
ゆっくりと、片手ずつ手が解放されるから、自分の調子で体を支えられる。
ただ、まだ中にあるものを抜いてくれないのだ。仕方ない、とベッドに乗り上げればずるりと中を刺激してライナスの雄は抜ける。色を添えた声が出てしまったのは、彼のそれがいまだ上向いているからだろう。思わずそれを凝視してしまう。
「」
ハッとして顔をあげる。「まだ」と短く、しかし単刀直入にライナスが言う。そして彼もまたベッドに乗り上げ、を押し倒すとそのまま唇を合わせた。はぁ、と情欲にすっかり染まっている。任務帰りのようなギラついた双眸だというのに、頭上に縫い上げた手に手を絡められ、貪られてしまう。
「んん、ん……っ」
舌を絡め、吸われ、口腔内を犯される。それがしつこいくらい続いて少し息苦しい。飲み込めず溢れた唾液の後を追う。ちゅ、ちゅ、と小さな音を立てるライナスはおそらくわざとだ。甘やかしているのか、愛されているのか、普段とは少し違う扱いにはいつも戸惑う。そして恥ずかしい。
「ライナ、ス……も、いいって」
「いい加減慣れろよ」
「……恥ずかしい、から……っ」
ライナスが体を起こすとベッドが軋む。膝裏に手を添え左右にの足を広げ、自身の雄を宛がう。
「エロいことしてそりゃねぇよ」
言って、彼は一息に最奥まで穿った。悲鳴のような嬌声が上がりかけて慌てては手を当て塞ぐのだが、ライナスがお構いなしにガツガツと欲望に忠実に腰を振るものだから、突き付けられるひっきりなしの快感にどうしても声が漏れてしまう。そしてなお困ってしまうのは、蓄積されていく悦楽がまともな思考を奪うのだ。
ぎゅ、とシーツを握りしめてしまう。這い上がってくるそれが頭の中を侵食して思考を奪うから、声など呆気ない。
「は、……っ」
「あぁ!ア……んん!は、……イッ……ぁ、らい……っ!!」
腰を掴まれ、彼の良い位置で良いように揺さぶられ続ける。その度にがりがりと蜜の溢れる肉壁をえぐられ続け、快感に落ちきった子宮口を幾度となく叩かれて、生娘ではない体は悦んでしまう。余裕を失いつつあるライナスに見下ろされるのも悪くはない。先程、吐精されたものが中でかき混ぜられ、泡立ちながら掻き出されてシーツを汚していく。ドロリとした感触が行為の実感を強めていた。
「ライ、ナス……っ!あ、も……やっ、んッ……!イ……くっ!……ッ……!!」
そうが口走った刹那、頭が痺れる感覚に襲われて不規則な痙攣を腰が打つ。中で同じように不規則にびくんびくんと震えながら熱いものが吐き出され、脈動に合わせたその感覚が内部であるのにありありと分かるのだ。
荒く浅い呼吸を繰り返して息を整えている。終わったはずなのに、ライナスは緩く腰を動かし続けて、まだ萎えないそれを押し付けてきた。
「ちょ、元気過ぎない?」
「ヤレるときにヤっとかねぇとな。次は半月後とか死ぬ」
「えぇ……」
体力の差は歴然としていて、ライナスが満足するまで付き合ったら、と考えるとの表情筋は分かりやすく引きつる。
「明日から任務なんだよね?」
「おう」
「いやいや、寝てちゃんと体調を──ッ……」
正論を言ったところで通じないことなど多々あることは知っているし、聞く気のない人間にとってそれが煩わしいものであることも知っている。だからといって、まだ余韻の残る中を擦って言葉を遮るなんて!は恨みがましく睨むが、片足を抱えあげるライナスはまるで意に介した様子はない。ぐ、と顔を近づけられると、最奥まで雄が届いて理路整然とした言葉からはかけ離れたものしかでてこない。
「で、お前は寂しくなんねぇの?」
「ッ……なわけ、ないで、しょ……ぁん!」
「……仕方ねぇな。半月後にとっとくか」
何が彼を満足させたのかは分からないが、は助かったと胸を撫で下ろす。ついでにようやく中からライナスの雄が抜けて圧迫感もない。自分の感覚を取り戻した心地でもある。
「これ見よがしに安心してんじゃねーぞ」
「わっ……!」
ぶっきらぼうな物言いのわりに、ライナスはその大きな体での体を抱き締めて目を閉じる。雑な所作で体が冷えないように毛布を引っ掻けて、目を閉じるのだ。
「部屋戻んないの?めずらしー」
「俺の優しさを押し売りしてんだよ」
寝て起きてしまえば、もう準備にしか時間が割けない。任務の確認で構ってやることもできない。そうしてそのまま離れて、次は半月後になるのだ。そもそもライナスは自身の家業に誇りを持っているからか、そうした離れがたさというものを滅多に感じたことがない。だから今ある感覚を持て余している。
「ちゃんと帰っておいでよ」
「おう」
の「おかえり」が一番心地よい。そこにすべてが至るのは半月後のことだった。