その日はクロードが修練の塔の最上階を攻略したとかで、「宴だ」と自主的な宴会が行われた。普段から色々な世界の英雄たちに声をかけていたからか、参加者はそれなりではあるものの、酒が回ればこれまた不思議なもので同じ世界線の人間たちと自然に固まるのだから面白い。
はどちらかと言えば【烈火】と称される世界線寄りだが、悲しくも同線上ではないこともあって気付けば輪の外から彼らを眺めることが多かった。疎外感を感じることもあれば、幾分か平和に暮らす彼らを見て嬉しくなるときもある。それなりに心との折り合いをつけられるようにはなっているから、ひどく気落ちすることはない。
だからその日もは機嫌良く、誘われた宴に身を任せていた。
イベントにかこつけて酒を飲むなんて今さらじゃない、とは笑って、宴へ誘ってきたクロードへ言った。しかしだからといってその誘いに対する返答がNOというわけではない。「そんなものに頼らなくとも」と続けるの顔が赤いことに、クロードは少しばかり期待を抱いたが、彼女の前には既に酒があって──つまりもう誘いに乗れるほどに機嫌が良いということで、“自分だから”などという想いは呆気なく否定された。
肩を竦めるのはそうしたことを残念に思う自分を宥めるためで、クロードは手を差し出す。そんなことだけで機を逃すつもりはないのだ。
「あれ?クロードって弱かったっけ?」
が知る限りでは、クロードは下戸ではない。対するもそうだが、かといってザルでもない。隣でうとうとする青年の扱いに困って辺りを見回すと少し離れた場所に、彼が【先生】と信頼する人物がいて、体よく目があった。名前は確か、とその名を口にしようとして、利き手に違和感がある。目線を落とすと、クロードの鮮やかな翠の瞳が薄く開かれていて、けれどもそこに眠気は存在していない。困ったことに彼が暗に言わんとしていることが解ってしまって、は正直己を呪うのだ。 無視すれば良い。それは解ってはいたが、どういうわけか自分は気に入った人間を甘やかしたくなる性分らしい。
ふぅ、と漏れたのはおそらく彼に対する自分の中の警戒心だ。気になるほどの年齢差ではないにしても、異性に至っては同年代の付き合いが多かった事もあって、年下との付き合い方は分からない。かといって彼が子供だとは思わないし、むしろ自分よりも芯のしっかりした人物だというのは分かっているのだ。そしてそれは、そう懸命ではない自分とは対照的でもあるから、苦手意識もあるにはある。相手を知ろうとしているのは解ったが、見透かされたくはない。だがそれが吐き出されてしまったのだ、残るは彼女自身が良くも悪くも思う享楽的な性だった。
「いい性格してるねぇ、クロードくん」
クロードは一瞬目を見開く。が、が彼の欲求を呑むのだと至れば表情が緩むのだから、は益々参ってしまう。可愛いことだ。
弱っているような雰囲気を見せていたくせに、音もなく立ち上がっていた彼は人目を憚りもせず、握ったままにしているの手の甲へ軽く口付ける。初めてではないが、この独特の文化には慣れない。目を合わせると見透かされた気がして居心地の悪さを感じるからと目をそらせば、くんと引っ張られる。ぱちん、とウィンクのあとはしぃと口をつぐむ指示が飛ぶ。
この、何がきっかけで始まったのか分からない宴は盛り上がっている。中抜けするなら黙っているのが都合が良いのだ。そんなことを分かりきっている彼らの息が合うのは当たり前で、誰に気づかれることもなくそこを後にするのは雑作もないことだった。
部屋に入ると自分の部屋のものと同じベッドがあった。一人用のそれに二人で寝転がるのは狭い、が今のクロードたちには大した問題ではなかった。目的の認識に齟齬はなく、唐突に始まる口付けも願ったものだ。触れあったのかと思えば、ぬるりと舌が互いの口内を交互に貪り、感情を高めあう。
「んぅ…は、ッ……ぁ」
服越しに互いの体をまさぐりあうが、もどかしさしかない。クロードは自身の上着の留め具を外そうと手をかけるのだが、普段、どうともしない動作のひとつだというのに、先走る感情が拙くさせている。苛立ちが芽生えそうになったが、があっさり外してしまうから思わず凝視してしまった。
「……慣れてるんだな」
「たまたま」
外したところでパッと手を離し、自身の言葉を強調するものの信用には値しないことをは知っていて、それが口端にのる。面倒さを感じながらも上衣を脱ぐクロードはしかし、承知の上なのだ。昔から知っている間柄でなければ、今こうして同じ世界で同じ空気を吸っていることが奇跡に近い。俄に信じがたい事象も身に降りかかるなら、受け入れざるを得ない。出会うはずのない相手だ。
するりと首に絡む腕に誘われて、の細い首を柔く噛む。余裕そうでいてびくりと震えた体がクロードの気をよくする。そうしていると、の冷たい手がクロードの腹を撫で、そのまま服をたくしあげるのだから堪らない。ぞわりとした感覚を誤魔化すように、やや乱暴にの服を同じようにたくしあげると、自分とは当たり前だが違うのだ。 ふるんと柔らかく豊かな胸がある。外気にさらされ、つんと立つ頂を口に含み、唇で軽く潰すと艶っぽい吐息がの鼻から抜けた。
「ふっぅ、くろー、ど……ッ」
もう片方に手を添えれば、あまりの柔らかさに何時までも触っていたくなる心地だ。そうして掌の中で形を変えて収まる胸の感触を楽しんでいると、むくりむくりと、自身の雄が硬さを増していく。ぐり、との股へ押し付ければ満更ではないようで、小さく彼女は喘ぐ。
かぷり、胸に軽く歯を立てる。それすらに快感を運んでくる。耐えるようなそれが余計に煽った。
「ひ、っ……ぁ!」
つぷん、と人差し指が沈む。それは根本まで深く沈むが、痛みを誘発することはない。指の数は増え、ぐりぐりと内壁を擦る。足先がびくびくと不規則に震えて快感に耐えている。先の快感を知るにはひどくもどかしい。深い口付けを受けながら、先を促すためにクロードの下半身に延びる手は肌に沿い、肌着の中へ侵入する。と、指先に熱いものが触れた。濡れているのは彼も同じで、手先で彼の先を軽く握る。凹凸部を見つけて指の腹で撫でれば、自身の中にあるクロードの指が激しく動いた。
「は、ぁ……。」
ちゅ、とクロードが頬を愛でる。「だいじょうぶ…」そう答えれば、彼は自身の陰茎を取り出し、先端を濡れそぼるそこへピタリと当てる。性急に求めている自覚はあるが、止められない。ただ乱暴にならないようにするだけで精一杯だった。
狭く拒むような入り口を抉じ開けるものの、一度でも先が侵入を果たせば一変して招き入れてくる。捕らえて離さない柔らかな肉壁の不規則な蠢きがなんとも言えない快感を運ぶのだ。
「ぁ、あっ、……ん、ん……ッ!」
ゆるやかに始まる律動が、まるでクロードの雄を型どらせるように中を何度も擦る。その度にじわりじわりと快感が奥底から呼び覚まされるから、は艶めいた吐息を漏らす。それは男の支配欲を更に煽り、にわかにクロードの陰茎は硬度を増させる。男と女の行為を成り立たせる当たり前の循環だ。
とんとん、と優しく子宮口を
叩かれる度に、脳天がしびれるような感覚がの口回りを弛緩させる。湿った息が唇をしっとりと潤わせ、漏れる喘ぎ声は言葉なき催促だった。
「ア、んッ、ぁ……!くろ、っ」
クロードが覆い被さるといっそう強く陰茎が押し込まれ、内部を圧迫する。無意識に逃れようとしたの体はすっぽりとクロードの下に収まっている上に、体重を掛けられているのだ。逃げようがない。「」と掠れた声で呼ばれて意識を向ければ、欲に濃く染まったエメラルド色の瞳に捕らえられている。そこには同じように欲に浸かっている自分の姿が映りこんでいた。
「舌、だして」
「?…ん、んんっ……、」
同じものを持ち合わせているのに絡んであるのは不思議な感触だ。それでもぬめりとした滑らかなそれに撫でられると不思議と悪くない。ただじれったい。そして気持ちは良い。けれども大きくはない。先に大きな快感を穿たれた身には物足りない。それを知っているから彼は焦らしたままで、が堪らないと自ずから絡め出すのを待っている。意地が悪い、と言いたくとも行動のみを求めるのか、クロードは執拗に舌を吸う。嚥下すらままならず、とろりと涎がこぼれて漸く解放された。
「はは、泣くくらい気持ちよかった?」
呼吸が楽になると、の体から力が抜けた。溢れたそれを指先で掬い舐めるクロードは分かりきっている。陰茎をくわえこんだ秘裂が頻りにひくついているのだ。涙で濡れた双眸に呆れを見たが、それすらも彼を満足させる。そしてそれは彼自身の雄を硬くした。
「あぁ、ん、ん!やッ!……う、……」
唐突に再開された律動が思いの外激しく、強く揺さぶられる。声を抑えることを失念してしまうほど、内部をごりごりと擦られてしまうとはイヤイヤと頭を振るのだが、それが何だというのか。それはただ性急に襲い来る快楽から逃れたいだけで、その実待ちわびていたものだ。突き破られるのではとおもうほど穿たれて、うわ言のように男の名を呼んでしまう。甘ったるい関係を結んではいないのに、図らずもこいねがうようなそれは熱の為した事だ。解っているのに、堪らない気持ちになる。
荒く乱れた呼吸が混ざり、まるで恋人同士の睦事のようだ。互いの体をこれでもかというほどにきつく抱き締めながら、同じ場所を目指している。いつもの余裕が感じられないクロードの息遣いが色っぽく思えて、はぞわりとした。たいして変わらないのはわかっているが、10代というのは特別に思えてならない。彼が自分よりも精神的にも大人であることは承知しているのも関係していたかもしれない。
「はっ……ぁ、くろ、…、…ッんぁ!」
いま、この時はにはクロードしかいない。彼が自分を受け止めてくれる唯一の人だ。だから思いきり甘ったるく名を呼んで、自分を穿つ下半身を己のもので絡める。
動きに合わせて揺れる胸を今さら恥ずかしく思って押さえると、褐色の大きな手が邪魔をする。
「そーいうの、大事だから見せて」
射精の波に耐えながら、むにと胸をわしづかむクロードの手は少し汗ばんでいた。指先がつんと尖る頂を引っ掻く。ただそれだけだというのに疼いてしまう。当に快感で子宮が下りてきている体には大きな刺激だ。うねる内壁がクロードから子種を搾り取ろうとして、ぎゅうぎゅうと収縮を繰り返し始める。もちろんが意図したことではないのだが、まるで宣戦布告を受け取ったとでもいうように彼は己の唇を舐めて、眼を細めた。
「あ、ぁあ!っ……、はげ、…しッ!ま、……っ!」
腰をつかみ、自分の持ちうる衝動すべてを与える。悲鳴混じりの嬌声を無視して穿ち続けると、不意にが喉をそらして小さく痙攣し始める。「や、ぁ……っ」とやはり小さな抵抗を押さえ込んで腰を打ち続けていると、これ以上ない射精感が溢れてそのまま下がりきった子宮口へ陰茎を押し付けた。びくびくと脈打ちながら吐精すると言い様のない開放感が脳にまで達した。
「はぁ……」
名残惜しさを感じながらも引き抜けば、それまで寸分なく埋まっていた場所に空気が入り込んだのかごぽりと音がして、白濁の欲が流れ落ちる。はその感触に眉根を潜め、原因となった主をじとりと睨んだ。
「2回戦は?」
「…………」
「冗談に見える?」
「みえるみえる」
「じゃあそうしておこう」
くすりと笑うクロードはじゃれつくようにの頬へキスをする。ああこれがピロートークとかいうやつか、とは思い至るがまぁ悪くはない。だから彼の鼻を摘まんでやるし、「生意気だ」とうそぶいてやる。
「。意外に優しいんだな」
「……ないない。ないって」
すべてを見透かしているような表情も声も、は釈然としないのだけれど、口角をつり上げるクロードの気軽なキスは嫌いではなかった。